花ある風景(142)
並木 徹
いまだ誰のものでもないは箒星 椎名陽子
このような句に出会うと、満ち足りた気持ちになる。俳句は17文字で宇宙を表現できる。自然を自由に気ままに言い表せる。箒星に事寄せて自由にのびのびと生きる作者自身をしめす。箒星は彗星のことで、尾のある星である。その出現で吉凶が判断された。
この句は、俳句同人誌「夢座」146号に椎名陽子さんが「太陽を探す」と題して発表した15句のひとつである。二句目は
雲海に真青な蝶が生まれるとき
すごい句である。このような発想はなかなか浮かばない。大きな喜びを表現しているのかもしれない。雲海といえば、戦争中よく歌った「航空百日祭」の歌を思い出す。
望めば遥か縹渺の/七洋すべて気とのみて/悠々寄する雲海の/果て玲瓏の芙 蓉峰/ああ八紘に天翔ける/男子の誇りの高きかな
椎名さんと知り合ったのは「夢座」に小さな広告を出したからである。電話で話した事があるが、いまだ一度も会っていない。新宿にあるカレー店にも3度ほど訪れたが、椎名さんは居合わせなかった。
作年頂いた初句集「風は緑」には私の心に響いた句がたくさんあった。
雲海やあなたの街が遠くなる
菜種梅雨傘のない子に追いついて
エレベータ素面の女と大根と
窓ひとつふたつ探して冬の蝶
お花畑に合鍵かくされて
椎名さんの潜在意識を見るとかなり情熱家である。感覚はみずみずしく鋭い。
私は椎名さんの句を自分勝手に想像して楽しんでいる。「朝涼し俳句と遊ぶ夢の中」(悠々)という句は生まれる所以である。 |