2003年(平成15年)9月20日号

No.228

銀座一丁目新聞

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花ある風景(142)

並木 徹

いまだ誰のものでもないは箒星  椎名陽子

  このような句に出会うと、満ち足りた気持ちになる。俳句は17文字で宇宙を表現できる。自然を自由に気ままに言い表せる。箒星に事寄せて自由にのびのびと生きる作者自身をしめす。箒星は彗星のことで、尾のある星である。その出現で吉凶が判断された。
この句は、俳句同人誌「夢座」146号に椎名陽子さんが「太陽を探す」と題して発表した15句のひとつである。二句目は

   雲海に真青な蝶が生まれるとき

 すごい句である。このような発想はなかなか浮かばない。大きな喜びを表現しているのかもしれない。雲海といえば、戦争中よく歌った「航空百日祭」の歌を思い出す。

  望めば遥か縹渺の/七洋すべて気とのみて/悠々寄する雲海の/果て玲瓏の芙  蓉峰/ああ八紘に天翔ける/男子の誇りの高きかな

 椎名さんと知り合ったのは「夢座」に小さな広告を出したからである。電話で話した事があるが、いまだ一度も会っていない。新宿にあるカレー店にも3度ほど訪れたが、椎名さんは居合わせなかった。
作年頂いた初句集「風は緑」には私の心に響いた句がたくさんあった。

  雲海やあなたの街が遠くなる
  菜種梅雨傘のない子に追いついて
  エレベータ素面の女と大根と
  窓ひとつふたつ探して冬の蝶
  お花畑に合鍵かくされて
 
 椎名さんの潜在意識を見るとかなり情熱家である。感覚はみずみずしく鋭い。
 私は椎名さんの句を自分勝手に想像して楽しんでいる。「朝涼し俳句と遊ぶ夢の中」(悠々)という句は生まれる所以である。

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