花ある風景(137)
並木 徹
エ・アロール・それがどうしたの
「エ・アロール」とはフランス語で「それがどうしたの」という意味である。この言葉はミッテラン大統領が妻以外の女性とのあいだに子供がいて、それを知った記者たちがその真偽について質問したのに答えたものである。記者たちも男女のことはプライペートな問題で、それ以上追及するのは野暮だというので、そのままにした。多少モラルに外れているが、それは当事者同志の問題で、第三者が口出すべきでないという自由、自律の精神が含まれている。
渡辺淳一さんは近著「エ・アロール」(角川書店)で高齢者のための施設「ヴィラ・エ・アロール」の中で仕事や世間の枠から解放されて自由になった高齢者をエ・アロールの精神で描いている。
第一章はヘルス嬢と戯れているとき心臓麻痺で死んだ元大手銀行の役員の話。女性と接するのが一番だというのが83歳、元役員の持論であった。ヘルス嬢が部屋を去るとき、医者であり、施設の経営者である主人公に「お参りしていっても、いいですか」と聞く。礼儀正しいヘルス嬢をさりげなく描写するあたり、作者の女性への優しさを感じる。
第四章ではポルノ映画鑑賞会が紹介される。お座敷に行く前に女将が芸者に諭す言葉が画面に字幕ででる。「いいかい、男は顔じゃなくて、お金だよ」
男から金をせしめるためには、あそこがよくなければならないと諭して、若い芸者の内股に卵を挟ませる。それでしまりをよくしようというわけである。ポルノ映画は男たちは身動きせず、ひたすら見守って居るのに女性たちの反応はストレートで賑やかであるという。
70歳以上の男女を対象にした「性欲調査」が興味深い。「ある」と答えたのが男性で35l、女性20l。「多少ある」男性40l、女性20l「ない」男性26l、女性60%となっている。
第五章には怖い事が書いてある。主人公が施設の人々に言っている言葉である。「もしお姑さんや舅さんに早く亡くなって欲しい時には、極力優しくして、なにもさせないことです。ひたすらベットに横たえておく。すると、いかなる怖いお義母さんも急激に弱り、やがて肺炎などを起こして亡くなります」
「年齢をとってからのセックスは楽しい」という女の菩薩の話は第六章から第七章にまたがる。千円頂いて施設の住人たちと楽しんでいたというから驚きである。オランダではハンデキャップある人も、安心して性的サービスを受けられるようにしたいという理由から地方自治体自らその種の女性の斡旋や派遣を行い、その利用料金まで助成している。日本円で約一万前後でセックスを楽しむことができるという。日本ではまず考えられない。
最後に心に響いた言葉は第九章に出てくる「医師は病気を治すものではなく、病人を治さなければならない」である。医師に限らない。政治家も役人も教師もすべてが対症療法しか考えず、根本的治療をなおざりにしている。直すべきは病める人間である。まあ、あまり固いいことをいわずに「エ・アロール」精神で行
くとしよう。 |