ある教師の独り言(9)
-こんな校長もいる−
−水野 ひかり−
とにかく暗い表情が多い子ども達を笑わせてみよう。毎回の授業で参考作品と称して旅先で買い集めた郷土玩具を見せたり、遊ばせたりした。すると固い表情も緩みクラス全体が和やかな空気に包まれるようになったが、時としてさっと顔を強張らせ遊ぶのを止めてしまう子どもがいる。どうも変だ。そこで我慢できなくなってしまい、記録している子どもをつかまえて記録したものを取り上げてしまった。記録していたカードは児童名簿だった。一人、一人こどもの名前の横に正の字が書き込まれている。名簿の上にはふざけた態度のひとと書かれていた。
姿勢を崩すと正の字の一本が書き込まれる。「でも記録している君はどうなのよ。君は大丈夫なんだ」と私が言うと、記録者は一人ではないと言う。クラスで担任に選ばれたリーダーがそれぞれ監視し、帰りの会で担任に報告する。報告結果で罰を受ける子ができるのだという。おたがいがおたがいを監視する。Aが担任でいる限り子ども達は気が休まるときがないのだ。
私は私の授業ではやらなくてよいことを子ども達に話したが、すぐにAから文句がきた。そして自分のクラスに口出しするなとか、子どもに迎合する甘い教師だとか言われたが、無視してしまった。
Aのクラスは漢字や計算のテストの結果も良い。だからいつも自信たぶりで、他の教師を馬鹿にしていた。しかし私は子ども達から聞いたが、Aはことあるごとにテストをする。そして結果順に席替えをする。夏の暑い日は涼しい窓側、冬の寒い日は温かい廊下側といったことを基準ににして席が決められる。成績のよいものから順番に席が決められるのだ。 「クラスで誰が一番勉強が出来て、誰ができないかクラスの子どもなら直ぐにわかるようにするのが目的なのだ。そうすればいつまでも馬鹿でいたくない奴は頑張るだろう」とAは子ども達に話したそうだ。忘れ物をしたり、テストの結果が悪かったりすれば、おでこに<頑張りましょう>のスタンプが押される。そのスタンプはAがふき取ってよいと言うまで落とせないのだ。怒られるというより、脅されると言って感じで、子ども達はおびえながら勉強し、毎日ぴりぴりしながら過ごしていた。
そんな風に子ども達を自分の思うままに操って素晴らしい(?)結果を出してAはのし上がっていった。今はある町で校長としてふんぞり返っている。やれやれである。 |