毎日新聞は沖縄返還をめぐる交渉で日米間の密約があり、その口裏あわせも行っていたことを明記した米国立公文書館の文書を入手したと報道した(6月28日)。密約の米国立公文書館の文書の存在について毎日新聞は平成12年5月30日にも「政府、400万ドルの肩代わり沖縄返還時の原状回復費 米公文書に明記 外務省の『密約』裏付け」の見出しで報じている。だからそう目新しいニュースではない。
むしろ、福田官房長官が記者会見で「密約は一切なかった」と言明したほうが驚きであった。政府は一貫して黒を白といい通すつもりなのか。
密約の火付け役は毎日新聞政治部西山太吉記者であった。外務省から入手した3通の電文から本来アメリカが払うべき軍用地の復元補償費を日本が肩代わりする密約を知った。この電文を元に3本の原稿を書いた。また、衆議院予算委員会では社会党の横路孝路議員が、西山記者からの電文のコピーを振りかざして政府を追及した。30年も前の出来事である。外務省機密漏洩事件という。
当時、筆者は論説委員であった。社内の雰囲気は良く知っている。ここで毎日新聞が犯した致命的なことはニュースソースを暴露した点である。その配慮を怠った。どんなことがあっても守るべきであった。国家機密は生半可な取材で取れるものではない。協力者がいる。絶対にニュース源は秘匿しなければならない。この大原則を守れないものに報道の自由、国民の知る権利を強調する資格はない。ここだけの話だが、もし女性事務官が「愛情から電文のコピーを渡しました」と証言したら「情を通じてそそのかした」という法の論理は消し飛んだであろう。西山記者に女性にはもっとこまやかないたわりが欲しかったというのはないものねだりであろうか。この事件はいろいろ考えさせられる。忘れはいけない事件のひとつである。
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