2002年(平成14年)6月20日号

No.183

銀座一丁目新聞

ホーム
茶説
追悼録
花ある風景
競馬徒然草
安全地帯
GINZA点描
横浜便り
水戸育児便り
お耳を拝借
銀座俳句道場
告知板
バックナンバー

茶説

安易な他紙からの引用を慎め

牧念人 悠々

 昨今、新聞が他紙の特種を取材もせずそのまま引用するケースが多くなった。原則的に言えば契約している通信社から配信されてくる記事は掲載してもかまわないが、他紙(週間誌も含む)からの引用は慎重な配慮がいる。しかもこの傾向は新聞の堕落をも意味する。先に、歌手、村田英雄さん(73)の死亡記事を「スポーツ報知」(6月8日・駅売り分)が誤報した(死亡したのは6月13日)。それなりの誤報のわけがあろう。
 それより問題なのは、この誤報を鵜呑みにしてそのまま報道した新聞、夕刊紙、テレビである。あえて名前をだす。「東京スポーツ」、「日刊ゲンダイ」、テレビ朝日の朝の情報番組「やじうまワイド」である。
 「一犬虚を伝うれば万犬実を伝える」あとで訂正したところでその訂正を見ない人はそのままその報道を信用する。引用した新聞によれば・・・としたからいいというものではない。すぐに結果がわかるものはよいが、容易にわからないものはその人の名誉を著しく傷つけることになる。
 報道、放送するからには確かな裏付けを必要とする。この場合は村田さんの自宅へ電話一本かければすむ話である。それをせず、しないというよりも電話を掛けるのも思いつかなかったのではないか。
 さらにはジャーナリストとしての勘が全くない。記事をみて「これはおかしい」と感じないのである。勉強もせず、現場にも行かず、情報収集に努力もせず、感度が極めてにぶい。スポーツ紙はよく写真誌の発売と同じ日に芸能人のスキャンダルを掲載する。これは邪道である。鵜呑みして載せるのは間違を起こす元である。スキャンダルだからこそ自社取材して記事化すべきである。スキャンダルを一、ニ日遅れたからといってたいしたことはない。それよりも、この現象は新聞記者の取材力が衰えてきていることと、新聞づくりに携わるデスクの質の低下を現している。相手が極度に隠したがる不倫をあばこうというのだから取材は簡単なことではない。体力もいるし、ねばり強くなければいけないし、時には機転も利かせねばならない。取材力のある記者でなければ、特種をものにはできない。
 特種を抜かれた場合どうするのか、いつにデスクの裁量にかかる。時期を見て抜き返せばよい。他社の特種が報道の価値があると判断すれば、他紙よりも派手に扱えばよい。良い紙面を作れば、どちらが先に抜いたのかわからなくなる。
 むしろ怖いのは、背後にある新聞の無責任さである。新聞づくりに「職責を全うする志」が感じられない。他誌の特種、写真スキャンダルを取材もせず、そのまま自社の新聞に掲載するのは無責任きわまる。
 テレビは論外である。情報番組は、はじめから内容を面白おかしければ良いという考えで製作されている。ここに「志」を求めるのは無理な注文である。それにしても新聞はあまりにも安易に作られすぎる。

このページについてのお問い合わせは次の宛先までお願いします。
www@hb-arts.co.jp