2002年(平成14年)3月20日号

No.174

銀座一丁目新聞

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追悼録(89)

 整理するのが下手である。いつも、机の上は読みかけの本、メモ用紙が散乱している。「整理するのは、自分の心をきれいにすることですよ」と言われて久しい。部屋をかたずけていたら、画家の今尾景三さんの色紙が出てきた。

      江東碧楼スポニチ社
      会長直裁許画展
      洛南上京班白人
      伴妻水墨丹青品
      並絡冬晴如洗顔
      露台寒風気凛凛

 今尾景三さんの個展をスポニチ本社の2階ラウンジで平成6年12月、開いた。「京都にいい絵描きさんがいる。東京で個展を開きたいと言っている」という知人からの紹介で、時折、催しものを開いているラウンジをお貸しした。
 個展は好評であった。この時の記念に頂いた馬の絵が銀座の事務所に飾ってある。気さくな今尾さんはスポニチの同人とすっかり仲よしになった。個展が終わった後、夫人の方江さんと一緒に伊豆大仁のスポニチ山荘へ立ち寄った。ここから見える富士山が気に入ったとらしく、翌年の2月、京都から車を飛ばしてまた山荘へこられた。
 この折、「天城」の部屋の3枚襖に「わらび」を書いてくれた。冬の硬い土からたくましく芽を出してのびてきたわらびである。スポニチの社報(平成7年3月30日)によると、おびただしい数のわらびのスケッチを部屋一杯に広げ、にかわを解き、絵の具、金粉の調合・・・と方江夫人を助手に3日かかりでしあげたという。他の部屋の襖にも今尾画伯の絵が描かれている。
 今尾景三さんは平成10年4月、72歳で亡くなられた。今年、夫人からの年賀状に「お変わりございませんか。伊豆の山荘又おかりさせてくださいませ」とあった。

(柳 路夫)

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