2002年(平成14年)3月20日号

No.174

銀座一丁目新聞

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安全地帯(4)

−ある農村の風景−

−真木 健策− 

 「息子二人は家を出て独立、あとを継ぐ気がないらしい。農業も俺の代で終わりだなあ」と嘆息するのは、兄で長野県下伊那郡喬木村の山合いに住む誠(78)である。今は三歳年下の奥さんと二人で暮らしている。農村もご多聞にもれず、後継者にめぐまれず、若者が減り、高齢化社会の厳しい現実と向き合っている。
 兄夫婦も谷間の水田を休耕、養蚕、干し柿つくり、梅の生産、出荷も止めた。山の斜面だけに体力、労力が続かないのが理由である。いまは自家用の野菜だけを栽培している。
 敗戦の年の昭和20年(1945年)から私と父は、そこで農業をしていたが、しばらくして私は兄に譲って家をでた。この間、青年学校にも通った。地区の青年団にも入った。おかげで、友達もでき、ちょぴり勉強もした。奉仕活動にも精を出した。
 地区の神社の秋祭りには獅子舞の行事があった。獅子頭にホロをつけ、ホロの中で笛や小太鼓、大太鼓をたたきながら境内を練り歩くもので、皆で連夜、練習した。 舞台では民謡踊りも披露し、拍手を浴びた。辛い生活のなかでのささやかな楽しみであった。今でも太鼓の音が心に響びく。その青年団も若者がいなくなり、自然消滅した。
 山あいの集落といっても標高約650b、役場、商店街、大型スーパーまで約4キロ。立派な舗装道路もできている。近頃では「空家はないか」と尋ねて来る人もあるようだ。夏は涼しく、別荘にしたいという。
 親友で村議、民生児童委員、区長をしている村山利一さん(71)は、すこしでも活性化をはかろうと、南天の普及に力をいれている。生け花用、正月飾りとして重宝されているもので「年寄りでも植栽できるからいい」と話している。

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