2002年(平成14年)3月1日号

No.172

銀座一丁目新聞

ホーム
茶説
追悼録
花ある風景
競馬徒然草
安全地帯
横浜便り
水戸育児便り
お耳を拝借
銀座俳句道場
告知板
バックナンバー

競馬徒然草(3)

−混沌たる社会の中で− 

 2月という月は、昔風にいえば「きさらぎ」。暦には節分、豆まき、立春といった行事が記されている。節分に関する祭事としては、京都に平安神宮節分祭というのがある。鬼たちの乱入を追い払う古い儀式の伝承である。有名人の年男が豆まきをすることで知られる成田山節分会などは、さまざまに形を変えて伝えられるものの一つだろう。
 同じ2月3日の祭事にも、これらとは別の変わったものもある。たとえば長崎県平戸の最教寺には、子泣き相撲。満2歳までの赤ん坊2人が土俵で向かい、先に泣き始めたほうが勝ち。「泣く子はよく育つ」という言い伝えに由来しているという。手帳のカレンダーに、こうしたさまざまな祭事を記しておくのも、なかなか楽しいようである。
 これが競馬ファンとなるとまた別で、レース名が書き込まれることになるから面白い。この時期の季節感を表わすレースには、花の名がいくつもある。明け3歳馬の1勝クラス(500万下)の特別レースに多い。東京には10日「カトレア賞」、京都には3日「梅花賞」、9日「こぶし賞」、17日「つばき賞」など。なお、東京には花ではないが、3日「うぐいす賞」、16日「春菜賞」といった具合。競馬ファンの季節感は、暦とレース名が結びついているのである。
 これらの特別レースより格上のレースには、2月10日の「きさらぎ賞」(GV、京都1800)があり、伏兵馬メジロマイヤーが勝った。500万下クラスの「白梅賞」を勝ったばかりの馬が、重賞レース出走組を蹴散らかしたのだから、春のクラシックレースへ向けて、またまた有力馬の誕生である。今年の明け3歳馬、特に牡馬についていえば、昨年夏のデビュー以来、重賞レースのたびに勝ち馬が違うという結果になっている。そこへまた1頭、新顔が名乗りを上げたわけで、春のクラシックへの興趣を盛り上げることになった。
 いまのところ天下の形勢は、昨年暮れの「朝日杯」(GT)を制したアドマイヤドンが一歩抜きん出ている、と見られている。これで3戦3勝の土つかず。平成5年(1993)に「桜花賞」、「オークス」の牝馬2冠に輝いたベガの仔(牡馬)である。レースぶりも文句のつけようがなく、さすがに良血と思わせる。
 ついでに、母ベガの強さに関する記録に触れれば、「桜花賞」も「オークス」も、2着ユキノビジン、3着マックスジョリー。この2頭(美人もジョリーも)、どうしてもベガ(琴座の織女)には勝てなかったわけである。それにしても、2レースとも同じ馬が2着、3着という着順であるのも珍しい。
 それはさておき、今年のベガの産駒は、どんな活躍を見せるだろうか。織女(ベガ)の子が、いかに男児とはいえ、「ドン」という名は似つかわしくないような気もするが。
 今年はどんな話題が生まれるだろうか。混沌とした暗い政治や社会の状況の中で、人は気持ちの和む何かを求める。その「何か」が、人によっては競馬であるとしても、そのひとときは、かけがえのないものだと思われる。今年もそれぞれの物語が始まろうとしている。

(宇曾裕三)

このページについてのお問い合わせは次の宛先までお願いします。
www@hb-arts.co.jp