2001年(平成13年)12月10日号

No.164

銀座一丁目新聞

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追悼録(79)

 昨今、朝、なかなか起きられない。『心は体を動かす』と言うが、起きようと思いつつも布団の中にもぐりこむ。心が体を動かす場合は、はっきりした意志と目標がある時だと気がつく。
 アメリカの大富豪、ドクター・ハーマーは『人間意志を持ち、思索し、実行し努力すればどんな願いもかなえられる」と言った。なるほど、意志が一番であるらしい。ついで、考えるのも大事のようである。すると体は動き、目標に向かって前進してゆくというわけか。だが、誰でもできるというものではなさそうだ。それは誰しもが強固な意志をもっていないからである。
 その意志を生み出す心とは一体なにか。『心の実態をとらえた人はいない。それは形がなく、どこに中心があるのも良くわからない不思議なものである』(秋山さと子著「ユング心理学」のまえがきより)という。
 スイスの心理学者、カール・グスタフ・ユングは何とかしてその心の神秘をとらえ、人間の喜怒哀楽の源泉を探ろうとした人であった。ユング心理学の面白さを教えてくれたのが新山恭子さんであった(平成10年11月死去、享年50歳)。
 スポニチでは『夢面談』まで連載した(1996年4月から9月まで)。夢は無意識の働きで『あなたへ何らかのメッセージをつたえるもの』とか『夢は自作自演のドラマである』と言った言葉を知った。ユングは夢には悪い夢は無くすべて前向きに解釈した。これは筆者の好みにあう。沢山のユングの本を買い込んだ。
 新山さんは肝臓ガンにおかされ、平成10年の夏ごろ、小金井市のキリスト系のホスピス病院に入院した。時たま面会に行くと、元気で『おかしな事に、夢の中では50歳から先が見えないのよ』屈託無く話をした。医者の見立てより長く生きた。常に物事を前向きに考える人であった。ユングが言うように『自己の完成を目指して長い旅にでている』のであろう。
 無意識の力は大きいと思う。『火事場のバカ力』といわれるように、火事の際、意外と普段もてない重いものが運べる。危急の際の集中力のなせる業にしても不思議な出来事である。無意識をコントロールできるひとつの要素は集中力であろう。もうひとつがいまはやりのイメージコントロールだと思う。あらかじめ想像して体を無意識に動かしてゆくのである。それに、集中力、リズム、間が加われば成果が上がる。
 ともかく、無意識を操れるようになったらどんな事も出来そうである。わかっているが出来ないのが平凡な人間であるという証拠である。

(柳 路夫)

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