2001年(平成13年)5月1日号

No.142

銀座一丁目新聞

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お耳を拝借(11)

-バリアフリー

芹澤 かずこ

 

 娘が福祉住環境コーディネーターなる資格を取得した。耳新しい資格なので、一体どうゆうことをするのか聞いてみると、高齢者や障害者に住みやすい住環境を提案するアドバイザーで、医療・福祉・建築について幅広い知識を身につけ、バリアフリー住宅の新築・建替え・リフォームなどのコーディネート、福祉用具・介護用品・家具などのアドバイス、福祉施策・サービスなどの情報提供などが主な仕事とのこと。高齢化社会に向けて一家に一人、福祉関係の仕事に従事しようとする者がいるのは誠に心強い。
 先日、同じマンション内で改装工事をした部屋を見に行った。
 今のマンションは築年数が経っているので、あちこちに段差はあるし廊下も狭い。改装した部屋は見事に段差をなくして、どこもかしこも真新しくなっていた。が、一緒に行った娘に言わせると廊下の幅が元のままでは、車椅子には対応しないという。
 また歩行を助ける手摺(てすり)を設けるにしても壁の状態が悪いので、補強が必要になるというし、台所も高さの調節が利くものが好ましい、と専門家的発言である。
 おまけにそれだけのリフォームをするとなると、工事の日数に3ヶ月ほど要するとのこと。魅力は感じたものの、その3ヶ月もの間、荷物を片付け、どこかへ移り、また戻るという2度手間を考えると、ついつい億劫になってしまう。
 「だからですね」と、時折新しいマンション情報を寄せてくる業者は言う。「今の所はそのまま人に貸して、新しいところへ移れば問題は解決します」と。う〜ん、それもなかなか魅力的だ。パンフレットを見ると、最近のマンションはなかなかよく出来ている。
 玄関は門扉の奥の方にあり、一戸建て風になっている。キッチンにもトイレにもバスにも最新の設備が整っていて、使い勝手もよさそうだし、廊下の幅も広い。勿論バリアフリーで床暖房。間取りも悪くない。角部屋だとバルコニーが2面もあり、上層階だとルーフバルコニーまで付いている。値段も思ったより高くはない。
 けれども――価格が安いということは、それだけ都心からも、最寄りの駅からも離れている。いい物件に違いないけれど、今ひとつ乗れないのは、この点にある。
 今の所は渋谷から4つ目。駅からゆっくり歩いても4分くらい。通り沿いにあるので夜道も明るい。築年数を除けば条件としてはいい方である。それゆえに、ここを手放す人は少なく、海外に赴任する際も貸して行くケ―スが多い。1階には専用庭も付いているので、ちょっとした庭作りも楽しめる。土と太陽というのは人間生活に欠かせないもの。年を重ねれば、その必要性はより増すことだろう。
 「ママ、あまり平らにしてしまっても、刺激がなくてボケるかもよ」とても専門家とは思えない発言だが、これも一理あるかもしれない。せめて段差に負けないように足腰を鍛えよう。
 今は特に不便を感じているわけではないから、先々、不自由な個所は娘のアドバイスを受けながら部分的に手を入れることにして、やっぱり住み慣れた所に住み続けるのが一番いいのではないか。挨拶を交わせる人が町の中に多くいるということは、土や太陽と同じくらいに大事なことだ、といろいろ迷った末に気がついた。



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