2004年(平成16年)3月20日号

No.246

銀座一丁目新聞

上へ
茶説
追悼録
花ある風景
競馬徒然草
安全地帯
お耳を拝借
山と私
GINZA点描
銀座俳句道場
告知板
バックナンバー

競馬徒然草(9)

―不正と疑惑― 

  英国の競馬界で、騎手の八百長疑惑が起きているそうだ。故意にレースで負けた疑惑だという。トップジョッキーのキーレン・ファロン騎手(39)が、3月2日のレースで、故意にゴール直前でスピードを落とし、頭差の2着に負けたというもの。同騎手は10馬身ほど差をつけてトップを走っていたが、後ろを振り返りながら急にスピードを落とし、後ろの馬に抜かれると、慌てて追い上げて2着に入ったというのだ。同騎手は「誤って早くスピードを落としてしまった」と弁明しているが、これが八百長の疑惑があると見られたわけだ。英国ジョッキークラブは調査を進める方針だが、とりあえず3週間の出場停止を命じた。真相はともかく、レース中の規則違反(不自然な騎乗により勝利を放棄した)に当たるとしての処分だ。
 故意に負けたことで賭けに荷担したとされる八百長疑惑は、今後の調査に待つしかない。勝って当然(勝利目前)の馬が、騎手の手抜きで2着に落ちたのだから、特に馬券を買っていたファンには、大きな損害を与える。重大な裏切り行為だ。また、初めから「負ける」と分かっていたら、それで儲けを企むこともできるわけで、以前はこの種の八百長は少なくなかった。それが今でもあるというのは信じ難いことだ。それにしても、大観衆が見ているゴール前での不自然な騎乗など、八百長のやり方としては、お粗末過ぎる。それでも八百長だとしたら、どんな思惑があったのだろうか。ミステリーの雑談としてなら、面白いかもしれない。
 八百長ではないが、不正の疑惑を感じさせたレースは、去年アメリカでも話題になった。3歳3冠レース第一関門ケンタッキーダービーで、1着馬(ファニーサイド)の勝利に疑惑があると報じられたのは、衝撃的なニュースだった。新聞(マイアミ・ヘラルド紙)がゴール時の写真を掲載し、騎手のホセ・サントスが右手に黒いものを持っているように見えると、疑惑を指摘したのだった。だが、レース裁定委員会の調査の結果、「違法行為の証拠は何もなかった」と発表された。右手にムチと一緒に持っているように見えた黒っぽいものは、隣の馬の騎手の影だったという。ところで、この幻の事件で疑惑が持たれたものとは、馬を速く走らせるために電流を流す仕掛けの電気機器。そうではないかと疑われたのだ。実際には使われていなかったのだが、こちらのほうが技術革新の時代を感じさせる点で、現代的といえる。その点、今回の英国の事件の場合は、いかにも古典的な印象を与える。
 ところで、不正の疑惑とまではいわないが、納得のいきかねるレースは少なくない。特に騎手の騎乗技術に関するものだ。例えば、スタートの出遅れ。人気馬が出遅れて負けたケースなど、ファンにしてみれば、単に「運が悪かった」ではすまない、釈然としないものが残る。また、いつもは先行するスピードのある馬が、その日に限って先行せず、馬群から抜け出そうともしないうちに、レースが終わってしまうケースもある。騎乗技術の問題というよりも、意図的なものがあったのではないかとさえ、疑わしく思われることがある。ファンも単純に、レースに一喜一憂しているだけではすまないのである。

( 新倉 弘久)

このページについてのお問い合わせは次の宛先までお願いします。(そのさい発行日記述をお忘れなく)
www@hb-arts.co.jp