2003年(平成15年)3月1日号

No.208

銀座一丁目新聞

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ある教師の独り言(17)

-こどものしたたかさ−

−水野 ひかり−

 SはYのような子をターゲットにして自分の思いのまま過ごしていた。Yは優柔不断なところがあり、Sの命じるままに動いているようだった。私がSの話しに耳を傾け誉めることを良いことに「先生なんかちょろいちょろいわよ」と言いYに命じてクラスの友達のものを隠したり取ったりさせた。クラスの子供達も黙ってはいなかった。学級会で、この頃物が無くなったり隠されたりすることについて話し合うことになった。
 クラスは異様なムードが流れた。誰もがやったのはSやYに違いないと思っている様子が伺える。意見を出す子はSとYの名前は出さないものの明らかに二人を指しているような物言いである。私は「最高学年を意識したクラス作りをしていこうと目標を立てたクラスにはあってはならない事件だよね」と語り、犯人を探すことよりこれからのことを話し合わないかとみなに話したが、殆どの子が何度も隠されたり取られたりしているので腑に落ちない顔をしている。そんな中でSが急に立ち上がって「私がやったことです」と早口にいい、泣き出した。「○さんが憎らしくて、隠しました。でも悪かったのは私です皆さん御免なさい。先生がかばってくれて嬉しかったです。だから黙っていられませんでした。他にも取ったり隠したりしました。皆持ち主に返します。本当にごめんなさい」と言った。わたしは凄く感動してSの勇気を誉めた。そしてこの事はクラスの大事な事件としよう。それがクラスのまとまりに大きな力になるようにしよう。と話しSの事は絶対に家の人や他のクラスの友達に話してはいけないと言った。
 けれどSは反省などしていなかった。「結構感動的だったよね。あれって私が泣いたからだよ」とYに話したそうだ。「あのままではどんどんやばくなるからあの位で言える事だけ言って泣けばごまかせる物はごまかせる。先生なんかころっと騙せるよ」とも言ったそうだ。

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