1999年(平成11年)10月20日号

No.88

銀座一丁目新聞

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横浜便り(3)

分須 朗子

 北鎌倉で土鈴を見つけた。そろそろ秋色に染まり始めた明月谷の山奥にある窯で作られている。実際、北鎌倉の歴史と土鈴の由来に直接的な関連はないようだが、「北鎌倉の土鈴」のファンは全国にも多いという。

 土で焼いた鈴たちは、十二支の形をしていたり、ヒョウタン型に季節花のデザインを施していたりと、色もカラフルで、人々の目を楽しませてくれる。

 動物の姿をした土鈴は皆一様に、耳の横で手招いている。1999年の干支、兎の手招き土鈴は全身紅色。一方の手で黄金のおツキさまを抱え、じっとこちらを見つめている。かわゆいかわゆい。

 しかし、彼らの本業は「鈴」である。軽く振ってみると、土壁の空洞の中でカラコロカランと土玉の音がする。表情同様、ひとつひとつ、土の音は違う。土鈴の生みの親は、それを「心の音」と表現した。「楽しい」「哀しい」・・・感じた音色は、手にした人の心を映すのだと。

 音は、人の魂を揺さぶる。古来から、音は、祭りに付き物だった。祭りは、元来、神へ捧げる祈り。土地を守るために、血縁に伝わる音を天高く響かせ、人々は踊った。人々は輪になり心を合わせ、歓喜したのだ。

 インドネシアで観たケチャックダンスが蘇る。音楽、踊り、演劇が一体化した民族舞踊。ガムランの金属の和音、チャッチャッというケチャのかけ声・・・ 音に合わせて、民話を演じ踊る役者たちの雄姿に、土地の伝統を守る義務だけではない、歓喜の色を見た。

 芸能の原点は、ここにあると思った。伝えることだけではない、人が歓喜すること。人を歓喜させること。音、踊り、映画、詩、文章、写真・・・何でもいい。いや、芸術に限らない。ふっとした瞬間、自分の仕業が、この世にあふれる苦しみから人の心をすくうかもしれない。

 手のひらの紅兎が、わたしに語りかける。「心の鈴の音を響かせよう。」小さな小さな偉大な“芸能兎”だ。

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