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毎日新聞が21世紀の伝言で「下山事件」を取り上げた(9月20日付)。社会部デスクとしてこの事件を直接指揮した平正一さん(故人)の名前があった。 昭和 24年7月、下山定則国鉄総裁が無残な轢死体で発見された下山事件は、毎日が自殺説、朝日,読売が他殺説をとった特異な事件だが、「21世紀の伝言」によれば、警視庁が検察庁も入れた捜査会議で「自殺」の発表をする寸前、GHQ(占領軍)の圧力で中止になったことを明らかにしている。当時、取材にあたった私たち警回りは,平デスクが、しばしば重役室に呼ばれて行く姿をみている。重役から「朝日や読売と同じく他殺説をのせよ」と迫られた。平さんの返事は「他殺の線をのせないわけではないのです。調べてゆくうちにシロくなり、自殺の線だけが残るのです」というものであった。 他紙が「下山氏自殺説は消滅」「轢断 3時間前に絶命――捜査範囲俄然せばまる」といった他殺説を報道する中、毎日は現場近くに「末広旅館」に下山さんらしい男が3時間も休むなど、常に単独で行動していた目撃者談話をつぎつぎ載せた。増田甲子七官房長官も「この労働攻勢にはげしい時、下山さんが自殺だとしたら、この労働攻撃はどうなるか」と圧力をかけた。平さんはひるまなかった。 新聞記者はこのような先輩の姿に教えられ、励まされ、成長していくのである。(柳 路夫) このページについてのお問い合わせは次の宛先までお願いします。 |