1999年(平成11年)9月1日号

No.83

銀座一丁目新聞

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12回国際女性映画週間上映作品(1

 1031日(日)から113日(水)まで、今年も国際女性映画週間――映像が女性で輝くとき――が開催されます。会場は従来どおりシネセゾン渋谷です。今年は7カ国12本の女性監督作品を選びました。ここでは、その中の3本をご紹介します。

アパートメント

otake.jpg (8731 バイト)大竹 洋子

監督・脚本 ヴィエト・リン
撮 影 ハイ・バオ
音 楽 フー・クアン
出 演 マイ・タイン、ホン・アイン、
ドン・ズオン、クエン・リンほか

1999年/ベトナム映画/カラー/90分

 1975年、サイゴンが陥落した。街角に建つビクトリー・ホテルは、解放軍の幹部とその家族の共同アパートに急遽変身する。ホテルのオーナーはすでに逃げ出していたが、行き場のないドアマンのタムは、思いがけずアパートの管理人に任命された。

 森の中で戦っていた人々がつぎつぎにやってくる。リーダー格のバー・トゥアンと妻のアン、息子のティエン・コン(前進の意),同じく幹部のホン一家,独身青年のフン、戦闘で片腕を失った中年女性のサウも独身である。

 ある日のこと、元オーナーの姪で医学生のミン・リーが、タムを頼ってやってきた。バー・トゥアンをはじめ住人たちは、彼女の入居にこころよく応じてくれる。やがてフン青年とミン・リーのあいだに恋がめばえた。

 食べ物も電気事情も思うに任せない不自由な日々だったが、人々は助けあいながら平和な生活を送っていた。まるで家族のように。時には意見の対立から緊張した空気がただよっても、タムが上手にさばいた。タムはアパートの住民たちにとって、なくてはならない存在になっていたのである。

 そして10年の歳月が流れる。経済の発展につれて,人々の心にも変化がおきていた。個人の生活が重視され,住民たちは家を買って転居してゆく。かっての連帯感は失われた。タムがひそかに思いを寄せていたサウも去った。年老いて孤独なタムにとっての慰めは,バー・トゥアン一家がアパートに残っていること,そして今は立派な若者に成長したティエン・コンを見守ることである。結婚したフンとミン・リーには子どもが生まれている。

 だがつらいニュースがもたらされた。都市開発のためにアパートが取り壊され、新しくホテルが建設されるというのである。住人には立ち退き料が支払われると、バー・トゥアンが教えてくれた。しかしタムの体はすでに病に冒されていた。そしてある夜、誰にも告げることなくタムは姿を消す。あとには「すべてをティエン・コンに譲る」という手紙が残っていた――。

 監督のヴィエト・リンさんは、1952年旧サイゴン郊外で生まれた。ベトナム戦争中は,父のレジスタンス運動の影響をうけ、兵士として戦った。後にモスクワで映画を学び,86年に監督デビュー、現在ではホーチミン映画製作所を代表する女性監督である。

 1992年第5回の女性映画週間で,私たちはリンさんの「旅まわりの一座」(88)を上映し,リンさんを招聘した。巡業のサーカス一座を通して,ベトナムの少数民族を描き出したこの作品は,国内では上映禁止になったが、ベトナム映画史上の名作として高い評価を得ている。静かで強い彼女の意志をはっきりと示したモノクロームの画面,そしてリンさんが話してくれた森の中での戦いの日々は、平和の尊さと、平和を守るのは私たち女性であることを,参加者一同にあらためて認識させた。

 新作「アパートメント」をみて、リンさんが健在なのをうれしく思った。社会の中でとり残され,ひっそりと生きる人に寄せる彼女の公平な眼差しは変わらないし,年月を重ねて彼女の腕前はいよいよ確かなものになった。ベトナム戦争から距離をおくことによって、革命の情熱が個人生活の尊重へと移り変わってゆくさまを、冷静にとらえる一方で、独特のユーモアも感じられようになっている。しばらくぶりにリンさんと会い,疎遠になっていたあいだの話をゆっくりしようと思う。

 113日〔水〕、シネセゾン渋谷で上映

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