2014年(平成26年)11月20日号

No.627

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花ある風景(542)

 

並木 徹

 

友人のお芝居『深川の赤い橋』をみる 

 スポニチで一緒に仕事をした小西良太郎君がお芝居の世界へ入って7年になる。新聞社の編集局長も務めた男が定年後の仕事としてこの世界に求めるのは珍しい。感心しながらお芝居を楽しんだ。

 お芝居は小西君が所属している「劇団東宝75人の会」による『深川の赤い橋』。作・演出・横沢祐一さん(江東区の深川江戸資料館小劇場・11月5日)。

 時は昭和48,9年ごろ。物語は深川佐賀町、油堀川の河口近くにある医院の待合室を中心として展開される。毎日のように集まるのは亀湯の亭主、亀島一太郎(横沢祐一)、木材店主人・西村次郎(小西良太郎),佃煮屋の隠居・時節時代(新井みよ子)。一太郎と次郎はへぼ将棋をしてやり合う。それに時代が時折、くちばしを入れる。ポンポンやり合うのが小気味いい。小西君も役者らしくなった。それにしても懐かしい風景。今の医院の待合室は老人で一杯。みんな黙々として語らず,所在なげに週刊誌をひもとく人もいる・・・。

 院長・竹中次良(内山恵司)、その夫人鈴(菅野園子、)孫娘・竹中弥生(松村朋子)竹中家の家政婦・福留フジ(鈴木雅)。みなそれぞれに味のある所作を見せる。思わず舞台へ体を乗り出す。

 医院長夫妻は20年前に亡くした息子夫婦のために医院の前の油堀川に赤い橋を建てたいと思い、民生委員と警防団長も兼ねる一太郎と建設会社を営む鈴の兄・都築笙平(丸山博一)に頼む。だが一向にらちが明かず鈴は何かにつけ兄から運動費に事寄せてお金をせびられる。

 彩りを添えるは弥生と次郎の息子伸太郎(那須いたる)のほのかな恋愛。看護学生の弥生は体の弱い伸太郎をいつも庇う。八幡様の本祭りの神輿担ぎにもよりそう。それと次郎と幼馴染の石村恵子(下山田ひろの)との仲も祭囃とともに消えてゆく。

 忘れがたいのは次郎の女房鶴子(梅原妙美)。亭主に焼いて見せると思えば亭主の思ひ人の体を心配する。身分違いと思いつつ息子伸太郎の嫁に弥生をと悩む。やがて二人は結ばれる。下町の典型的なお母さん像だ。

 小津安二郎が生まれたのは佐賀町のすぐ傍の深川万年町。肥料問屋湯浅屋の二男坊であった。演出の横沢さんが小津映画の場面を髣髴とさせる場面を作ったといっていた。大きな声では言えないがそれは鶴子の所作・台詞にあるのだと思ったのだが・・・
念願の赤い橋は高速道路ができるため油堀川が埋め立てられることになり不必要になってしまった。説明に来たのは区役所の職員(高橋志麻子)。請願者の顔を立てながら架橋できなくなった理由を説明する。開発の名のもとに下町の情緒が一づつ消えてゆく。

 「竹馬やいろはにほへとちりぢりに」万太郎