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一犬虚を伝えれば万犬実を伝う
牧念人 悠々
新聞が嘘を伝えればその影響する処は大きい。「一犬虚を伝えれば万犬実を伝う」という。恐ろしい事だ。朝日新聞の慰安婦報道に続いて同社の本田勝一記者の執筆・出版した『中国の旅』『中国に日本軍』に掲載した「南京虐殺・証拠写真」がでたらめであったという。
『中国の日本軍』に掲載された写真に本多記者は「婦女子を狩り集め,連れて行く日本兵たち。強姦や凌辱は8歳から70歳を超えた老女にまで及んだ」と説明した。資料の原点は『中国・暴行実録』。その説明には「江南の農村婦女は一群、一群となって押送され、侵略軍の司令部へ連れ去られ、凌辱、輪姦、銃殺された」とある。
ところがである。実はこの写真は朝日新聞・熊崎玉樹カメラマン(故人)が日中戦争に特派され、昭和12年10月14日揚子江沿いの宝山県で撮ったもの。同年11月16日に発売された朝日新聞発行の「アサヒグラフ」に掲載されていた。その時の写真説明は「わが兵隊に守られ、野良仕事から日の丸部落へ帰る女、子供の群れ」とある。実は『暴行実録』は当時の国民政府軍事委員会・政治部が対日攻撃の宣伝資料として編集したものであった。本多記者は無批判にそのまま写真を掲載したということになる。『中国の旅』の連載が始まったのは昭和47年である。戦後22年もたつというのに中国は日本を陥れる工作をしている。今回、「南京虐殺・証拠写真」のでたらめさを報じたのは「週刊新潮」(9月25日号)だが、すでに16年も前に秦郁彦さんが雑誌「諸君」(平成10年4月号)で「南京虐殺」−証拠写真を鑑定するーで詳しく書き、その間違いを指摘している。
また平成17年2月に出版された『南京事件「証拠写真」を検証する』(東中野修道・小林進・福永慎次郎著・草思社刊)には『中国の旅』に掲載された写真「日本刀による首切り」「切り落とした生首の記念写真」「穴を掘らせ生き埋めにしている日本軍」などについて演出され、合成されており矛盾点や疑問点が多いとしている。「国民党のプロパガンダ写真に改ざんされた説明を付している」と指摘する。この東中野さんらの書は「虐殺があったか、なかったか」を検証すものではなく、あくまでも「証拠写真」を検証したうえでの結論である。『3万枚以上の写真を見たが南京大虐殺の「証拠写真」として通用するものなかった』という。
秦郁彦さんは「南京事件」−「虐殺の構造―(中公新書・2007年7月増刷版)で本多記者の本は「10年間で26刷を重ねるベストセラーになっただけでも浸透度の高さを推し量れよう」と書く。でたらめの写真を載せ日本軍の非道さを誇張して記事にした本多記者と朝日新聞はまんまと中国の謀略宣伝に組込まれ一役を担ったということだ。もちろん中国戦争で日本軍の非道な振る舞いがなかったと言うつもりはない。昭和16年1月8日に出された「戦陣訓」は中国戦線での日本軍兵士の軍規があまりにもひどかったのでそれを戒めるために出されものであった。
「中国の旅」はすべて中国側が用意したスケジュールに従って取材したという。これは報道としては邪道だ。雑誌、書籍がその非を指摘した際、反論なり訂正記事を出すべきであったと思う。「改めるるに憚ることなかれ」。区切りのいい時に釈明するのが大新聞の矜持というものであろう。
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