2014年(平成26年)9月1日号

No.619

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茶説

大人よ 子供に「童話」「童謡」を・・・

 牧念人 悠々

 ルパン文芸の主宰者山本祐司君から『1ダースの童話』第3号が送られてきた(6月15日発行)。幼児の育児放棄、子殺し、親虐待の不祥事を見るにつけ聞くにつけ、その原因の一つは「童話」「童謡」が大人の口からきかれなくなったことだと思う。今、放映中のNHKの朝のドラマ「花子とアン」が人気を呼んでいるのはその裏返しであろう。山本祐司君が言うように昔、一流作家が童話を書き続けた。芥川龍之介が童話『蜘蛛の糸』を書いたのは大正7年4月である。悪事を働いて地獄に落とされた大泥棒が御釈迦様の慈悲で極楽から垂れてきた蜘蛛の糸をたどって上りはじめた。ところが他の罪人たちも糸を上りはじめたのに気が付き、糸が切れてはたまらないと思い「降りろ、降りろ」とわめいた途端、糸が切れて地獄に落ちて行ったという話。現代でも自分の事しか考えない我利我利亡者がいっぱいいる。現代こそ「童話」が必要である。

 第3号に収められた「童話」は12編である。いずれも読みごたがある。山本祐司君は「生きたお葬式」と題して学徒出陣に絡まる女子学生と出陣学生の物語を書く。学徒出陣は昭和18年10月21日、神宮外苑競技場で雨の中行われた。出陣学生は東京、神奈川、千葉、埼玉など大学、高専、師範学校77校無慮○○名と新聞は報道した。○○としたのは防諜上で実際は3万人と言われている。送別学徒は百七校7万5千名という。当時の新聞の見出しを見ると「壮んなる首途 米英撃つ雄叫び 外苑揺るがす歴史的壮行会」とある。私は陸軍予科士官学校(埼玉県朝霞)在学中で21日は22日から29日まで習志野での野外演習の準備に忙しかった。この日、朝霞は曇りであった。

 上田泰一さんの「二つのUSA」は発想が面白い。戦後の話で、本当の事かどうか知らないが日本全国八カ所から八校の代表チームが出てアメリカチームとバスケットの対抗戦をやることになった。ところが九州の代表チームが大分県・県立宇佐高校であった。ユニホームの横文字「USA」(宇佐)にアメリカ大使館から文句が出た。「USA」はアメリカ合衆国を表すのは世界の常識だという。どう決着がついたのかいえば「古き伝統」に軍配が上がった。宇佐市長はこうねじ込んだ。「宇佐には日本国中4万社といわれる八幡神社の総本山、宇佐神宮があるのです。宇佐神宮は1500年ぐらい前に建てられたもので宇佐の歴史、地名はそれよりもずっと以前からあったものです」「USA」はたかだか2百数十年の歴史しかない。古き伝統の前にアメリカは弱い。何事にも日本は主張すべきははっきりものを言うべきだという寓話と受け取った。最後に大野彩子さんの「丘の上の桜の木」も心に響いた。大きな桜の木と若い桜の木との共生の話だ。思わず「敷島の大和心を人問わば朝日に匂う桜花かな」の歌を口ずさむ。桜花のように“匂う”日本人が少なくなってしまった。