2014年(平成26年)8月10日号

No.617

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茶説

イラク紛争は宗教問題だけではない

 牧念人 悠々

 友人たちの勉強会「相武台会」(102回・場所:相模原市東林間・「プレウドシティ東林間」2階会議室・世話人・河部康男君)で武田健作君の「ティグリス・ユーフラテスの水とイラク紛争」について話を聞いた。他に4君がそれぞれ貴重な話をしたのだがイラク紛争は“宗教”問題だけではないという視点が気に入ったのでこの問題を取り上げる。
武田君は英国の新聞「THE GUARDIAN」(電子版・7月2日)に「イラクもシリアでも水を制するものが最終勝利を得る」を引用して紛争のイラクは水の問題も深刻であると指摘する。古代文明発祥の地イラクはティグリス・ユーフラテスの水に支えられている。これらトルコに発する河川はまずシリアを流れ、イラクは最末端の位置にある。水の利用としては極めて不利な条件にあるという。

 日本でも古来、名君と言われた大名は「治水」を政治の要諦と心得た。イラクの紛争をイスラム教のシーア派とスンニ派の対立と捉え両派の融和を求めるだけではイラク紛争の解決にはならないということだ。

 ティグリスとユーフラテスの両河は、トルコのアナトリア東部の山間にその源を発する。前者は南東に流れシリアの北東部をかすめた後イラクに流れる。全長約1800Km。後者は大きく迂回してトルコ北東部を流れ、シリアを通過し、イラクでティグリス川と合流してシャトルアルアラブ川となる。約190Km。流れて最終的にペルシア湾にそそぐ。全長2780Km。年平均降水量はシリアのダマスカスで183mm、イラクのバクダッドで155mmである(注・東京1528.8mm)。

 水は人間の生存になくてはならぬもの。狭い日本でも水をめぐって血の争いが起きた。ましてトルコ、シルリア、イラクと三国となると水利をめぐる話は利害が対立して簡単にまとまらない。たとえば、シリアはトルコラ、イラクはシリアから流される国境通過流量に保証を求めて何度か協議がなされたが水配分の基準、費用負担などで合意意に至っていない。また重要な争点なのが水質問題である。水資源制約下の乾燥地では脱塩処理をしない限り営農放棄地は拡大する。脱塩コストが農業経済を圧迫している。これまで中近東全体で水を融通する国際的水資源計画が提案されてきた。その実現のためには当事国間の平和的信頼関係の確立が先決であるという。

 ところでイラク紛争である。米軍が撤退して一時落ち着きを見せていたイラクがイスラム過激派の武装勢力「イラク・シリアのイスラム国」(ISIS)の侵攻で内戦状況に落ち入ろうとしている。米国はイラクにまず「シーア派とスンニ派の対立を解消せよ」という。実はISISのメンバーはサウジ人が大半でシリア人は少なく、別にスンニ派民衆に支持されてはいない。さらにISISに代表されるアルカイダ系組織をシリアで台頭させたのはサウジアラビアやトルコが外国人戦闘員をシリアに流入させ、彼らに資金、武器を支援することを米国をはじめ欧米諸国が黙認してきたという(雑誌「外交」26巻・青山弘之東京外国大学教授論文)。青山論文によると「シーア派政権」と見られているマリキ首相が実際はシーア派のライバルを排除する一方、スンニ派の同盟者を雍しており,宗派を軸として支配を行っているわけではないと指摘している。今年の4月の総選挙には第一党となった民主的実績があることを忘れてはなるまい。「まず米国がやることは同盟国であるサウジアラビアやトルコにテロ対策の協力を求めるべきだ」という青山教授の指摘を聞くべきであろう。

 日本は国際協力機構が数々のイラク復興支援を行っている。水利関係の円借款プロジェクトをみると、デラロック水力発電理に森永建設事業(170億円)、中西部上水道セクターローン(413億円)、アル・アッカーズ火力発電所建設事業(296億円)、クルド地域上水道整備事業(343億円)、クルド地域電力セクター復興事業(147億円)、灌漑セクターローン中部・南部(95億円)バクダット下水道施設改善事業(21億円)、アルムサイプ火力発電所改修事業(368億円)、バスラ上水道整備事業(430億円)などである。
イラクの水利組織は貯水ダム8ヶ所、灌漑用の取水堰12ヶ所、灌漑用の揚水施設275ヶ所、イラクの電力の17%強を発電、灌漑水路の延長27000Km、灌漑面積325ヘクタール。これらの施設は長年の動乱のために機能の低下がひどく、特に電力、上下水道施設の復旧が急がれている。日本の援助が現地で喜ばれている。民政に力を入れる政権こそ民衆の支持を得る。

 ところでイラクは今後どうなるのか、武田君は「最近の情勢ではイラク北東部を占めるクルド族の自治政府が独立、スンニ派、シーア派それぞれ政府を構成して、イラクは連邦国家になるのではないかという見方もある」と紹介する。

 私は分裂せずに民主主義国家がまがりなりにも育つことを願う。