2014年(平成26年)8月10日号

No.617

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安全地帯(437)

信濃 太郎


夏の都市対抗野球試合に感あり


 第85回都市対抗野球は大垣市の西濃運輸が3年ぶり33度目の出場で悲願の初優勝を飾った(7月29日)。創部55年目の快挙であった。この日、天皇,皇后両陛下は決勝戦をご覧になられた。天皇陛下は皇太子時代の1959年の30回大会以来で皇后様は初めてであった。監督の林教雄さん(64)は2年前の6月に監督に復帰、まず「心の掃除が必要」とグランド、室内練習場、合宿所の掃除から始めた。掃除は選手の心を示す。雑な掃除をする選手はプレーも雑でエラーばかりする。手を抜かず綺麗に掃除する選手はここぞというときに踏ん張れる。「トイレに神様がいる」のは間違いない。

 天覧試合で優勝、しかも創部55年、都市対抗出場33回目、努力と伝統.一所懸命に生きる者が報われることを実証する。混迷する時代の底流に流れているものを西濃運輸の選手たちが見せてくれた。

 私が忘れがたい都市対抗は1951年の大会である。ロッキード事件さなかであった。社会部から沢畠毅君と小原博人君が取材に駆り出された。小原君は「なぜ私が都市対抗を取材しなければいけないのですか。ロッキード事件の取材をやらしてください」とごねた。社会部長の私は「都市対抗も立派な取材対象だ。文句を言うな」となだめた。7月27日、都市対抗も第2回戦に入った。球場でウグイス嬢が意外なアナウンスをする。「毎日新聞の速報をお知らせします。ロッキード事件捜査の東京地検特捜部は今朝田中前首相を外為法違反容疑で逮捕しました」。ネット裏、一、三塁側スタンドに「エッ」「オー」「ヘー」というどよめきが一斉に起きた。二人は試合の取材をそっちのっけにして田中逮捕に関する観客の談話などを送った。二人は後楽園球場で思もかけないロッキード事件取材をしたわけである。この朝、毎日新聞一面トップに「高官逮捕」と田中逮捕を仄めかす記事を書いた高尾義彦君(俳号・河彦)は次の句を残す。

 「蝉が鳴く 高官逮捕 はるかなり」(河彦)

 この年の3月に社会部長になった私は部員たちに「ジャーナリストとして何ができるか、己に問え」と訴えた。あれから63年この問いは今でも生きている。時代の底流に流れる伏流を暴き出すに役立つことは変わりない。