2014年(平成26年)8月10日号

No.617

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花ある風景(532)

 

並木 徹

 

竹山愛のフルート演奏を聴く 

 竹山愛のフルートリサイタルを聴く(7月27日・浜離宮朝日ホール)。ピアノは入江一雄.ともに東京芸大出身、二人とも日本音楽コンクールでそれぞれの部門の第一位に入賞している。「モーツアルト:ロンド 二長調K.Anh.184」。出だしから息の合った演奏を披露する。入江さんのピアノは間もなく大輪の花を咲かせよう、そんな感じをいだかせた。久しぶりに聞く竹山愛はお顔つきも大人びて大きく成長したところをみせた。

 この日、期待したのは現代音楽「吉松隆:デジルタバード組曲 作品15」。現代音楽を演奏させたら竹山愛の右に出る演奏家は数えるほどしかいないであろうと思っている。「鳥恐怖症」(変奏曲)「夕暮れの鳥」(子守唄)「さえずり機械」(間奏曲)「真昼の鳥」(円舞曲)「鳥回路」(終幕のロンド)の五曲構成。「現代音楽からの離脱を軽やかな鳥のステップになぞらえた最初の作品」としていまから32年前の1982年に初演されたという。

 「デジタルの 鳥の鳴き声 面白し 旋律高く 転がす如く」(悠々)

 デジタルバードを聞きながら東日本大震災、東京電力発電所の放射能漏れで被災地に鳥が近寄らなくなったということを思い出した。まだ大震災が起きていない32年前に吉松隆は「鳥回路」(終幕のロンド)を作曲しているのに驚く。

 現地の人は次の俳句を残す。

 「瓦礫の町ひと月遅れの燕くる」(亘理 金升富美子)

 最後の演奏曲「ピエネル:ソナタ 作品36」も心地よく聞いた。とりわけ第一楽章アレグレットが胸にしみ込んだ。ピアノに溶け込んだフルートの音色が何とも言えなかった。

 「タファネル:ウェバーの歌劇「魔弾の射手」によるファンタジー」「シューベルト:ソラチネ イ短調 作品137−2 D.385」も円熟した演奏ぶりを見せ満員の音楽フアンの拍手を浴びた。

 東京は34.5度の猛暑日。そんな日のひと時を音楽に身を任すのは至福というほかない。天もうらやましく思われたのであろう。午後3時過ぎに強いにわか雨を降らした。