安全地帯(427)
−信濃 太郎−
新生ふるきゃらの「ドリーム工場」をみる
久しぶりに新生ふるきゃらのミュージカル「ドリーム工場」を見る(4月12日・府中の森芸術劇場)。東日本大震災で半壊した縫製工場の再生の物語である。すでに仙台市、横浜、東京をはじめ四国、福岡など全国ツア―を行い、共感を呼んでいる。
舞台は吹浜ソーイング社長鳩村浩(小山田錦司)を中心にして展開する。津波で半壊した縫製工場で泥や海水をかぶったミシンを社長がひとりで洗浄する。これを助けるのが社長の弟・達男(木村雅彦)、達男はバングラデッシュ技術指導に出かけるのをやめて岐阜から駆け付ける。もう一人が縫製工中村安代(北村華那)のご亭主・中ちゃん(大塚邦雄)。ベアリング・機械に強い。小山田さん、大塚さん、それに小沢薫世さん(縫製工)などの古株が出てこないとふるきゃらの舞台は盛り上がらない。「無駄なことをしている」と無関心だった縫製工の女性たちも工場復活に夢を懸ける。
復興再建はそう簡単なことではない。工場再建、資金繰り,売り先など様々な困難が待ち受ける。舞台では「復興予算には羽がある」の歌が歌われ、「復興予算」の名目で被災地以外のところで予算が使われることを風刺する。風評被害もある。縫製工岡辺俊子(坪川晃子)の夫の漁師・健二(螺澤真一郎)がとれた魚が売れないのを嘆く場面が出てくる。縫製工の中心的役割を果たしている水間充子(佐藤水香)一家のもめ事も出てくる。一人娘のサチ子(岡村佳代子)のボーイフレンドをめぐり父親の水間剛(おーのーお)と争い、剛がボーイフレンドを殴り警察沙汰になる。震災復興の中でも庶民の日常生活は喜怒哀楽の中で営まわれる。
救世主は裁断師山本(早川真稀夫)。達男の招きで縫製工の技術指導に当たる。さらに社長の営業活動が失敗、社員たちが暗い気持ちに陥っているとき、山本が仕事を持ってくる。山本の夢は「東京コレクション」を開くことだという。舞台では早速フアションショーを繰り広げられる。縫製工がきれいなモデルに変身するのは見ごたえがあった。縫製工場の再生と言っても容易ではない。安物の90%は中国や東南アジアの賃金の低いところに仕事を奪われ、高級品はイタリアやフランスに行ってしまう。復興とは、絆とは、具体的に仕事を被災地に持ってゆくことである。すばらしい歌のハーモニや踊りに堪能しながらそのことをひしひしと感じた。
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