花ある風景(511)
並木 徹
井上ひさしの凄さ
最近、井上久のお芝居を見なくなった。舞台に常連の俳優たちが顔を見せなくなったのも一因であろう。NHKテレビで「井上ひさし物語」を見た。(NHK・BS3の「プレミアムドラマ」・12月15日午後10時)最も感動したのは「頭痛・肩こり樋口一葉」という題名が浮かんでくるシーンである。井上ひさしは、なぜ一葉の頭痛がするかわからなかった。すると一葉が夢に出てきて頭痛の原因は頭の髪の結い方にあった。明治時代、頭髪を固く締めなければいけなかったので頭痛と肩こりがひどかったという。そこで井上ひさしは「頭痛肩こり樋口一葉」という題が思いついた。たちどころに原稿が書けるようになったという。物事に『なぜ』と疑問を持つことが大切であることを井上ひさしは教える。作家はよく「タイトル」(題名)が決まると原稿はすらすら書けると言う。前から井上ひさしがなぜこの題名を付けたが疑問に思っていたがこれでよくわかった。さらに彼が文字通り万巻の書(20万冊)を読み、それをもとに独自の世界を創造していったのか理解できた。そのために遅筆となり、芝居の幕開けがしばしばおくれるのを常とした。読書の大切さと他人のまねでない自分のオリジナルを創りださねばならな大事さを知る。
2003年8月15日。このお芝居を見て感想を書いているので紹介したい(2003年8月20日号「花ある風景」参照)
「頭痛肩こり樋口一葉」を見るのは3度目である(東京・新宿・紀伊国屋サザンシアター)。この時は歌に心がいやされた。
幕が開くとともに5人の少女による童謡調の「盆唄」が聞こえる。なんとなく懐かしさがこみあげる。「ぼんぼん盆の十六日に/地獄の地獄の蓋があく/地獄の釜の蓋があく・・・」最後に盆提灯に灯をともって「胡瓜の馬に茄子の牛/瓢箪 酸漿 飾りましょ 飾りましょ」と歌う。久世星佳(稲葉鉱)の歌が心にしみる。「わたしたちの心は穴のあいた入れ物/わたしたちの心は穴だらけの入れ物/生きていたころの記憶がその穴からこぼれてゆく・・・」(詞、井上ひさし曲、宇野誠一郎)心に穴があるから生きていけるのかもしれい。が、大切なことまで落としては生きてゆけない。記憶しておかなければいけないこともある。歌を聞いていると、大切なものをなくしてしまったような気持ちになる。切なくなる。久世の歌声が心に残る。
花 蛍(新橋耐子)は絶品。幽霊らしい幽霊であった。
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