花ある風景(508)
並木 徹
「ウイリアム・モリス 美しい暮らし」展を観る
「ウイリアム・モリス 美しい暮らし―ステンドグラス・壁紙・テキスタイル」展を観る(11月4日・府中美術館)。府中市のこの美術館は自宅から歩いて10分足らずのところにある。時々興味を引く企画展を開く。作品点数93点。モリス以外にも12人のデザイナー・画家などの作品が展示されている。
会場入り口にモリスの言葉が目につく。「役に立たないもの、美しいと思わないものを家においてはならない」なるほど、自分の生活が反省される。我が家はガラクタばかりだ。
「ガーデン・チューリップ」壁紙(1885年・木版印刷)「柳の枝」の壁紙もある。一時期ロンドンの家庭の壁紙は「柳」が流行した。大学を卒業後、建築・絵画を目指したが挫折、装飾芸術へ転身その才能を開花させたという。内装用ファブリック(織物)「いちご泥棒」イチゴとそれをついばみにきたツグミが描かれている。モリスのデザインの中で最も人気があったものだ。「チューリップとバラ」(内装用ファブリック・1876年・三重織)「ひなぎくあるいは草」(カーペット・1870−1875年・パイル織)などがある。ある時期モリスは織物に熱中した。縦糸と横糸からなる織物には左右対称で単純化されたモチーフと文様的なデザインが求められる。そこに対称の美が現出する。モリスが追及してやまないものであったと思う。「手づくり・モノづくり」にはとことんこだわった。インディゴ染め(青・藍色を呈する染料)には「深くうつくしい青色」を出すためにその手は洗っても落ちなかったほどいつも青であったという。その粘り、妥協を許さない姿勢、日本には今、この職人気質が足りない。
圧巻は25点のステンドグラス。セント・マーティン教会(イングランド北西部ブランプトン)のステンドグラスである。「希望・慈悲・信仰」(デザイン:エドワード・バーン・ジョーンズ・1887年制作)青・白・赤の衣装の女性がそれぞれのポーズをとる。思いは形に現れる。「聖ペトロ召命」(セント・ピーター教会・デザイン・ジョン・ヘンリー・ダール・1902年)の前にたたずむ。ダールはモリスの一番弟子。船も浮かぶ海辺にペトロを中心に8人が描かれる。魚師ペテロは弟アンデレとともにガラリヤ湖畔でイエスに「わたしについてきなさい。人間のたましいをとる魚師にしてあげよう」と声を懸けられ弟子になった(「取税人マタイの記録」第4章17節)。ペトロは「主の御前には一日は千年の如く、千年は一日のごとし」(ペテロからの手紙―2第3章8節)の言葉を残して殉教した。
モリスは1834年3月株式仲買人の裕福な家に生まれる(1896年10月62歳で死去)。折からの産業革命で粗悪品が粗製濫造されるのを観て丁寧な手仕事から美しい暮らしを人々に与えようとデザイナー工芸家を目指す。そこには効率的、大量生産、手抜きの簡略な作業を求める日本の現状とは、明らかに対置するモリスの生き方がある。学ぶ必要があるように思う。
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