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羊頭狗肉変じて冷凍鮮魚となる
牧念人 悠々
人間の“虚言”は何千年たとうが何万年たとうがかわらない。紀元前500年頃の『晏子春秋』に「牛頭を門に懸けて内に馬肉を売る」という言葉がある。それが前漢の劉向の『説苑』(紀元前1世紀)には「牛骨を懸けて馬肉を内に売る」となり、さらに「羊頭を懸けて狗肉(犬の肉)を売る」と変わってゆく。ともかく看板に偽りがあることには間違いがない。
現代は21世紀である。それが紀元前と人間の心はそう変わらない。
「鮮魚のムニエル」―「冷凍保存した魚を使用」
「旬鮮魚のお造り三種盛り合わせ」―「3種のうち1種に冷凍マグロを使用」
「霧島ポークの上海式醤油煮込み」−「仕入れ先が産地の異なるポークを納品」
「津軽地鶏のマリネイタリア風」―「地鶏ではない銘柄種津軽鶏を提供」
「クラゲのレッドキャビア添え」―「マスではなくトビウオの魚卵を提供」
等々である。
阪急阪神ホテルの社長は「偽装表示」ではなく「誤表示」だと釈明する(11月1日辞任)。8ホテル23店舗で表示と異なる食材の提供例は47、利用客は7万8775人に上るという。期間は7年半である。嘘を7年半続けるのと過ちを7年半続けるのとどこが違うのか。一見「嘘」の方が悪いように見えるが嘘と知っているのだから当事者は良心の呵責からびくびくしているのに「過ち」の方は気づかないのだから平気で毎日を過ごしていることになり、むしろこちらの方が悪質であるといってよい。利用客の立場に立てば「偽物」を食わされたのだから「偽装」も「誤表示」も全く同じである。
それにしても日本人の味覚が落ちたものだと思う。古来日本人は道端に咲く可憐な花を美しいと思う美意識があった.旬のものを好んで食べその味覚を楽しんだものである。暖衣飽食,効率第一の時代とともに人間が鈍感になったように見える。
さらに言えば経営者の質が悪くなった.「誤表示」を7年半も放置していた罪はあくまでも社長にある。現場を歩けばそこでその職場の欠点も美点もすぐわかる。「連絡が悪かった」などという弁明はたわごとである。問題が起きればすぐに部下の責任にする。部下の行動は社長の鏡である。くもった鏡を持つ社長が多くなった。昨今あちらこちらで不祥事・事故が頻発するのはそのためである。
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