2013年(平成25年)6月10日号

No.576

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茶説

 成長戦略素案にもの申す

   牧念人 悠々

 「アベノミックス」の「第3の矢」となる成長戦略素案がどうも物足りない。素案が発表されたその日の株はがっかりして安値をつけた。これまでの大胆な金融緩和政策、思い切った財政出動の気概はどこへ行ったのか。既得権の打破、規制緩和などに抵抗が多いのはわかるが,それをおそれていては日本の前進も発展もない。大仏次郎は小説「帰郷」の中で主人公にこういわせた。「こう、なまぬるく好い加減のところで折り合うのが日本人の流儀なのかもしれぬが、私はそうしない。こうと思い立ったことは終点まで追い詰めないと、後味が悪くて睡れない質だ(君は悪いものを相手にした。そんな卑しいと真似はしないで立ち上がりたまえ)」(新潮文庫・昭和47年10月20日35版)

 「10年後に一人当たり国民所得を150万円増やす」と謳ったところなどは「いい加減なところで折り合った、まさに日本人流」である。いまの政治家の中に「後味が悪くて睡れない」という人はいないのか。

 目標は明確だ。「脱デフレ」。不退転の決意と覚悟。それにすばらしいアイデアが必要である。世間に手本はいくらでもある。マラソン選手の川内優輝選手を見るがいい。彼の熱烈なるマラソンへの情熱。それが自由にして無謀と思えるスケジュールを組む。そのなかで創意工夫を重ね進化してゆく。彼が日ごろから口にするのは「常識にとらわれないこと」である。第15回長野マラソン大会では雪の悪条件の中で日本選手として初優勝した(4月21日)。2014年W杯ブラジル大会の出場を決めた(6月4日)サッカー日本代表の本田圭祐選手はチームの「和」よりも「個の成長」を説き、さらなる飛躍を語った。時代は激動する。それなりの対応を必死になって模索する。政治も変わらねばならぬ。

 素案から抜け落ちた「企業の農地所有の自由化」「日本の標準時間を2時間早める提案」などを見ても常識にとらわれているのが分かる。政治家はぬるま湯に浸かっている。さらに言えば「よいアイデア」が分からないのだ。

 蛇足だと思うがここに「アイデア3原則」を掲げる。

 1、アイデアはアイデアの分かる人にしかわからない
 2、いいアイデアは会議にかけるな
 3、みんなが賛成するアイデアはつまらないアイデアである

 結局は安倍晋三首相のリーダーシップにかかっているということである。