2013年(平成25年)4月20日号

No.571

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茶説

お芝居「木の上の軍隊」

   牧念人 悠々 

 原案・井上ひさし・作・蓬莱竜太・演出・栗山民也「木の上の軍隊」を見る(4月10日・渋谷シアターコクーン)。井上ひさしが2回公演を試みながら実現しなかったものを蓬莱竜太が「理由も理屈もいらない。ライフ、生きること」というモーチーフを付け加えて書き下ろしたのが今回のお芝居である。お芝居は沖縄戦での実話に基づく。見ていて胸がうずくのを覚えた。

 場所は沖縄本島から西方5q離れた伊江島。ここに日本軍は人海戦術で飛行場を作った。だが米軍上陸前に飛行場を爆破する。1943年、大本営は本土防衛のために伊江島のほか読谷、北谷(嘉手納)、浦添にも飛行場を建設している。伊江島は長さ8q、幅3q。人口6800人。昭和20年4月16日、アメリカ軍が上陸したときには3000人が取り残された。6日間の戦闘で日本軍はほぼ全滅。戦死者4500人、その3分の1が伊江島の住民であった。追い詰められた二人の兵士がガジュマルに難を避けて2年近く木の上で生活をする。敗戦も知らず二人っきりで戦う。彼らの命を救ったのはガジュマルであった。「語る女」(片平なぎさ)はいう。「その木は,締め殺しの木と呼ばれていた。人の頭五つを超える幹から延びるその枝は他の樹木とは異なり垂直に大地へと進んでいく・・・」

 木の上で生活、生き延びた上官(山西惇)と新兵(藤原竜也)の食糧は米軍の残飯であった。ポークソーセージも砂糖もあった。上官のセリフ「この国の人間なら、あいつらの食い物が身体の中にあると思うだけで死んでしまいたい気持ちになるんだよ。それともお前は、この国の人間じゃないのか?この島の人間はやっぱり国民じゃないのか」渇しても盗泉の水を飲まずというが生きるためには食うほかない。上官も米軍の給食で体力を保てた。

 二人のやり取りは時には上官と部下の枠をとりはらす。人間同士の会話となる。新兵の感慨。「その背中をみていると、なんでそうゆうことをするのかねぇと、できるのかねぇと、変な気持がこみ上げてきます。命を懸けるということはでーじすごいことと思うのですが、自分にとってはやっぱり不思議なことであり、そのようにありたいと願う一方、何でそうゆうことがのかねぇ、と不可思議な気持になるのです」。それが生きるということであろう。所詮、人間は矛盾の動物である。ともかく人間の葛藤や迷いよく出ている。21世紀の現代はまことに奇妙である。核兵器保有にあくせくし、弾道ミサイル開発に狂奔する北朝鮮。その姿を全世界に露呈しながら脅しをかける。ことさらに危機をあおって利益を得ようとする「瀬戸際外交」だという。まさに「危機の上の軍隊」。である。それがわたしの胸を疼かせたのだと思う。