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正しいことは断固としてなすべし
牧念人 悠々
松下政経塾を創設した松下幸之助は「今日の日本の姿を見ていると、政治でも何でも、やりにくいことを全部避けてしまう傾向が強い。やりやすい事しかやらない。財政危機といった問題も、そうしたところから生じているように思う」といったことがある。この状況は今でも変わらない。松下幸之助は「それが正しい事である場合にはたとえやりにくいことがあっても断固としてやりぬかねばならない」とも言っている。
黒田日銀が発表した「資金供給量をこれまでの2倍にする」新緩和策について新聞の論説は対案を出さずいたずらに「極めてリスクの高い賭けが始まった」として危険を伴う大きな一歩と評論する。
新政策は2012年末に市中の現金と銀行が日銀に預けている「当座預金残高」の合計が138兆円であったものを日銀が2014年末に270兆円に増やすというのだ。これではお金の価値が下落するからインフレになる。お金が不動産など投資に向かうと資産バブルになる。逆にこのお金が企業の設備投資、新規企業、消費、賃上げに回れば「脱デフレ」となる。「物価目標2%」は達成できる。
「失われた20年」というデフレ状況をいかにして脱却するかその初めての試みが行われようとしている。
今度は政治の出番である。なんとしてもGDPを上げねばならない経済成長率を高めることだ。安倍政権が掲げる三本の矢の一つである。GDPは平成7年の513兆円から今は470兆円台に落ち込んでいる。それにはGDPを生み出す元気な産業と企業を育てるほかない。「世界一活動しやすい企業環境」が出現すれば文句はない。さらに投資意欲がわくようなビジョンを持った産業であればお金は循環してゆく。いくら金融潤沢になっても滞留していては意味がない。金融機関も知恵を出して積極的に貸出先を見つけねばならない。また働くものの待遇も思切ってよくする配慮も必要である。TTP参加もプラスととらえよう。
市場はこの決定を「日銀がルビンコン川を渡った」と表現した。ルビンコン川はローマとガリアの国境を流れる川。BC50年ローマを二分していたポンペイウスがガリアに居たもう一方の旗頭・ジュリアス・シーザーに対して独断專恣を問責する法律を作り「指揮下の全軍隊を解き、直ちに帰国せよ。然らずんば国賊とみなさん」と訓令を発する。シーザーは信頼する歩兵と騎兵をつれてルビンコン川に来る。軍隊を連れて国境を超えると国賊となる。単身でローマへ行けば死が待つ。熟慮の末「神の示す方に進まん。賽はすでに投げられた」と全軍に渡河を命じる。そしてファルサルスの決戦でポンペイウスを破り勝利する。問題はこの後である。美女クレオパトラに迷い、最後は愛する若者もいた反対派のために暗殺され、「ブルータス、お前もか」の名句を残す。
要するに「経済は生き物」である。いかようにも変化する。「脱デフレ」の処方箋はない。信ずる道に進むほかない。歴史の教訓は身を慎み、身内を固め、内部の不協和音を出さないことだと教えている。
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