安全地帯(387)
−信濃 太郎−
中国の軍事費を考える
中国の2013年度の国防予算は7406億2200万元(約11兆1100億円)前年実績比10.7%増。実質比3年連続の2桁の伸びである。日本の2013年度の国防費は4兆7700億円である。自分の国は自分で守るのは当然だとしてもこの異常な中国の国防費には頭をかしげざるを得ない。中国よ、何をおびえているのかといいたい。
第二次大戦が終わった後、地域紛争、テロは頻発しても国家と国家との戦争は起きていない。2001年9月11日米国の同時多発テロが起きる2年も前、中国の空軍の大佐らが出版した「超限戦」には今後は古典的な国家対国家ではなく、ゲリラグループ対国家の戦争が起きるようになると、指摘したではないか。
アメリカの戦略国際問題研究所の報告書によると、アジア主要5ヶ国で2011年度の国防費は中国899億ドル(約7兆円)、日本582億ドル、3位インド370億ドル4位韓国286億ドル、5位台湾101億ドルとなっている。同報告書ではストックホルム国際平和研究所の発表の金額として中国の現実の国防支出は1422億ドルであったとしている。昨今は「海洋強国」を目指すとして潜水艦の増強、空母の就航を果たす。この軍備増強ぶりにアジアだけでなく世界からも懸念の声が上がる。
中国は「海を制する者、世界を制する」と主張するアルフレッド・T・マハンの「海上権力の歴史に及ぼした影響―1660〜1783年」を信奉する。マハンが唱えた「戦争とは暴力的手段による政治運動の一形態に過ぎない」「利害の対立する両国間に平和を維持するには力によるほかない」と心得ているようだ。「主権,統一、領土、領海など国家の革新的利益については一歩も譲歩も妥協もしない」と高圧的な態度に出ている理由が分かる。南シナ海でのベトナム、フイリッピンとの対立、東シナイ海での日本との紛争に強硬な態度を見せているのもうなずける。
中国の軍隊は国家の軍隊ではなく中国共産党の軍隊であるのを忘れてはなるまい。いくら習近平国家主席が「和平発展」を唱えても軍は時に暴発する。尖閣諸島付近で起きた中国フリゲート艦による海上自衛隊護衛艦への射撃用火器管制レーダー照射事件はその好例である。一発触発の事態であった。
アヘン戦争(1840〜1842)を持ち出すまでもなく中国はここ160年来、欧米・日本から弱国故に屈辱を受けてきた。その怨念は民族の深層に渦巻いている。世界第2位の経済大国となり軍事面でもアメリカを抜いて第一の座を占めたいと狙っているようである。ここへきて二けたの伸びを示してきた経済成長も陰りを見せてきた。2013年度の経済成長率は7.5%。だが、達成できるかどうか危ぶむ声もある。貧富の格差は増すばかり。共産党幹部・高官の汚職の横行、環境の悪化などひずみがあまりにも目立つ。13億の民を食わしていくのは容易なことではない。「食は民の本なり。民は国の基なり」(老子)。そろそろ共産党政権も金属疲労が来たようだ。「海洋強国」よりも民の生活を安定させる時期に来ているのではないか。共産主義というものはそういうものではなかったのか。民を飢餓に陥れて何が二けたの防衛費か。川を汚染し民の健康を害して何が共産党政権か。大気汚染をまき散らして何が「世界二の大国」か。中国がおびえるとしたら明らかに出始めた“亡国の兆し”に対してであろう。
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