2012年(平成24年)1月1日号

No.560

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茶説

今、安部信三内閣の真価が問われる

   牧念人 悠々 

 古事記は歌う。「大和は国のまほろば たたなづく 青垣 山隠れる 大和しうるはし」。古代の人が賛美した日本の国は国の形として「文化・芸術立国」「貿易立国」が一番望ましいであろう。そのまほろばの国が今や危機に瀕している。安倍晋三首相の「危機突破内閣」のかじ取りは極めて難しい。経済指標が物語る。成長率は1980年代年平均1・3%であったものが2000年代は0・6%と低下している。デフレは低成長の結果に過ぎない。安部首相が「デフレ脱却」を主張するのは当然すぎる。大胆な金融緩和策だけでなく経済成長政策も緊急の課題である。しかも公的債務はGDPの2倍になっている。無制限に国債を発行するわけにもゆくまい。年々税収が落ち込んでいる現在、40兆円程度の税収で90兆円を超える国の予算を賄うのは至難の業である。それでも大型補正予算、それに続く本年度予算も組まざるを得ない状況にある。日本の国債が暴落して金利が上昇するのを虎視淡々として狙っている著名な海外投資家グループがいる。国債が暴落して日本が破滅すると唱える評論家もいる。そのGDPは平成7年の513兆円から今は470兆円台に落ち込んでいる。ちなみにGDPの半分は給料を含めた家計に分配される。端的に言えばサラリーマンの給料を多く支給しようとすればGDPを増やすほかない。それにはGDPを生み出す元気な産業と企業を育てるほかない。「世界一活動しやすい企業」が出現すれば文句はない。さらに投資意欲がわくようなビジョンを持った産業であればお金は循環してゆく。いくら金融潤沢になっても滞留していては意味がない。日本の元気がないのは59ヶ国・地域の中で国際競争力が27位、政府の競争力が48位とはっきりしている。日本の出生率が現在1.39であるのも問題である。これも出生率を上げる政策をとる必要があろう。だが台湾の出生率1・07、韓国が1・19であるのに成長率が高いのを見逃していけない。これは政府が経済成長の環境を整えているからだ。復活する経済財政諮問会議と経済再生本部の役割は多きい。難題の一つはTPP参加問題。先進国では農水産業は若者たちをひきつける所得の高い産業だという。だとすれば、日本も発想を転換すべきであろう。

 こう論じて気が付いた。戦後日本人は権利ばかりを主張して義務をないがしろにしてきた。ともすれば安きにつくようになった。人のために、社会のために、国のために尽くすのは当たり前であるのにそれを忘れてしまった。それが軍国主義につながるという人さえいる。利己主義・我利我利の儲け主義が戦後の大きな風潮となった。これが現在の日本に凋落をもたらしている最大の要因だと思う。要は戦後教育に問題がある。イギリスの歴史家が言った。「偉大な国家を滅ぼすものは、決して外面的要因ではない。それは何よりも人間の心の中、そしてその反映たる社会の風潮によって滅びる」。この言葉が私には真実のように思える。「かくばかりみにくき国となりたれば捧げし人のただ惜しまる」の戦争未亡人の歌が万感の思いで私に迫ってくる。