2012年(平成24年)1月1日号

No.560

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花ある風景(478)

 

並木 徹

 

生活。遵法。掟。難民
 

 難民問題をテーマのイタリア映画「海と大陸」を見る(昨年12月21日・日本記者クラブ)。監督はエーレ・クリアレーゼさん。岩波ホールで4月6日からロードショーされる。昨年5月にも難民問題を扱ったフランス映画「ル・アーヴルの靴磨き」を見た。この映画では私は「強きをくじき弱きを助ける江戸っ子気質を見た」と感想を書いた(昨年6月1日号「茶説」)。難民問題はまことに扱いにくいが不法入国した難民を助けるのはその人の良心に待つほかないと感じた。

 映画の舞台はシチリアの南にある離島リノーサ島。人口450人。面積5.45q。夏の観光が主産業。漁業は衰退の一途をたどる。主人公は20歳のフィリッポ。父を海で亡くし、母親ジィエッタと70歳になる祖父エルネストの三人暮らし。祖父と毎日海に出ている。観光業に転じた叔父ニーノは魚業をやめて老後を楽しむべきだとエルネストに説くが聞く耳を持たない。

 夏の観光シーンズンには一家は家を改装して3人の若者たちにレンタルし自分たちはガレージで生活する。ある日海でアフリカからボートでやってきた数人の難民を救助する。その中の身重のサラとその息子をかくまう。その夜、サラはジュリエッタの手によって出産する。翌日、エルネストの船は不法入国幇助の罪で差し押さえられてしまう。エルネストは海では危険に陥っている人間を救くうのは“海の掟”だと自分の信念を曲げない。ジェリエッタはサラたちを警察へ引き渡すべきだと主張する。サラは2年かけてエチオピアからこの島にやっとの思いでたどり着く。さらに夫のいるトリノに向かいたいという。ジェリエッタとてゆく当てのないサラらを見放すのに忍びないと迷う。その夜、フィリッポは自宅をレンタルした観光客の女性と海に出るが、陸へ泳いでくる難民たちが自分たちの船に縋り付くのをこん棒でたたいてかろうじて帰港する。”海の掟”に背いたフィリッポは後味の悪い思いにとらわれる。翌日、ピーチに昨晩の難民たちが打ち上げられる。生き残った難民たちは観光客と同じ船で返される。

 エルネストはサラ親子の脱出を決めてワゴン車に乗せるがその夜は検問が厳しく脱出が困難となる。困り果てた末、フィリッポがワゴン車を港まで運転、差し押さえられ封印されたエルネストの船にサラ親子を乗せて暗い海に乗り出した。フィリッポの自分の良心に従った行動であった。サラのトリノ行きが成功したかどうか映画は明らかにしない。なおラサ役のティムニット・Tは難民の一人である。2009年夏ランペドゥーサ島に80人の難民を乗せたボートが漂着。3週間の漂流を経てたどり着いたボートに生存者は3人のみであった。ティムニットそのうちの一人である。