昨年10月亡くなった小薗江圭子さんの童話『ボリガペッパとゼラ』―魔法使いの少年の旅―絵・大島まどか(平凡社・10月24日刊)が出版された。御主人の平川隆一さんが遺品を整理中この作品を発見された。生前親交のあった作家の深沢七郎さんは小薗江さんを紫式部と呼ばれたが小薗江さんの作風は美しい言葉が紡ぎだされ、人の心を温かくさせてくれる。不器用な魔法使いの少年と美しく賢い少女の旅の物語は私たちの胸の中を爽やかな一陣の風が吹き抜けてゆく思いがする。
「この広い野原いっぱい」の作詞のある著者は魔法使いの少年と少女を世界中に旅させて少年に自信を持たせるようにする愛の話でもある。クリスマスの日、大劇場の演劇には入り口でもたもたする少年を有名な演劇評論と言って通してしまう。「こういう公演のときには一番いい席が一番たくさんあいている」「ご招待席」である。彼女にかかると皮肉も皮肉とは感じない。少年は海に潜って少女のためにタカラ貝、マキ貝などでネックレスを作る。それをつけたゼラを「イザナミノミコトだ」と言い、もっと美人と思っていたゼラをがっかりさせる。大型客船にも二人は乗り留学氏とお金論争をして青年を励ます。日本にも訪問する。お祭りでは新しく建てる柱にする大木を引き下ろすのを少年は積極的に参加する。力持ちであるのを示す。山に帰った時、シンデレラの魔法使いのお婆さんが訓示した。「この旅の経験を生かしてより良き魔法使いになれ」。ボリガペッパは旅行の報告をする。日本での話をした。アラジンの魔法使いは「君は偉大な魔法使いだ」とほめる。昔から「可愛い子には旅をさせよ」と言う。この本に紹介された少女ゼラの行動に「太古、女性は太陽であった」と言う言葉を思い出した。最後に小薗江圭子さんに歌を捧げる。
「めぐり逢ひて見しやそれともわからぬ間に雲隠れにし夜半の月かな」紫式部
(柳 路夫)
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