2012年(平成24年)9月20日号

No.551

銀座一丁目新聞

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安全地帯(370)

信濃 太郎


竹山愛のフルートを聞く


 日曜日の午後のひとときを竹山愛のフルート演奏で楽しむ(ピアノ・清水和音)。優れた音楽家を広く紹介している「毎日ゾリステン」の第191回演奏会(9日・東京・飯田橋トッパンホール)。曲目は「ドビュッシー:ピリティスの歌」他5曲である。昭和38年から始まった「毎日ゾリステン演奏会」でフルート演奏会は今回でわずか5回目だけである。

 この日最後に演奏したプロコフィエフ:フルート・ソナタ ニ長調 作品94が圧巻であった。伴奏の清水和音のピアノとフルートの音が見事に溶け合い、時にはお互いに自己を主張、それぞれ独自の世界を展開して心地良く聞いた。独ソ戦が始まった1941年8月、プロコフィエフが他の芸術家とともにモスクワから疎開した。その避難先でこの曲を作った。彼の思いは第4楽章のアレグロコンプリオに凝縮されている。テンポの速い、鋭い旋律の中に平和への願望が秘められているように思えた。何故か私は西行の「わりなしや氷る筧の水ゆえに思ひ捨てし春の待たるる」の歌を思い出した。俗世を捨てた西行でさえ筧の氷をみて春を待ち望んだ。とすれば、プロコフィエフとて戦火を避けてみても田舎の田園風景に春を強く望んだのであろう。

 現代音楽を演奏させたら彼女の右に出る者は一人か二人しかいないであろうと私はほれ込んでいる。フランスの作曲家ユレル:「エオリア」を独奏する。エオリアはギリシャ神話に出てくる風の神様である。風を制御する神様ようで”風の暴力“をコントロールする力を持つ。私にはフルートを演奏する竹山愛が風を起こす神とさえ見えた。

 アンコール曲でも現代音楽を独奏する。昨年12月25日、東京国立博物館での演奏会で私が「未知の惑星」と名づけた曲であった。今回も心に響いた。