2012年(平成24年)9月1日号

No.549

銀座一丁目新聞

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山と私

(89) 国分 リン

― 素晴らしい白馬縦走と、悪天のため撤退した不帰の嶮 ―  

 天狗山荘の周囲は8月半ばなのにまだ積雪があり、その周囲にはウルップソウが青い花をつけ、数十株咲き、この山旅の最高の贈り物と感激した。

                
 今年の夏山を一緒に登ろうと、スポニチ登山学校先輩のMさんと相談したら、また片平講師をお願いして、白馬から不帰の嶮を通り唐松岳への縦走を決め、片平講師に相談し、コースが決定した。

 8月11日、13時半に蓮華温泉到着。この温泉は上杉謙信が発見したという古い歴史を持つ秘湯の温泉で、蓮華七湯と呼ばれる露天風呂が山の中に点在し、私は10年前に1泊してこの露天風呂へ入り、翌日に朝日岳へ登った。今回は蓮華温泉(1470m)を横目で見て、白馬大池登山口へ向かい、標高差1000mの急登をひたすら登った。大きなブナ林の樹林帯を登っていると、雨がぽつぽつと落ちてきて、雨具を付けたら、にわか雨が音を立てて全身ずぶ濡れになった。必死で登り、天狗の庭(2093m)のお花畑も雨の中でとても残念だった。晴れていれば眺めが良く、気分良く歩ける場所も残念。17時30分白馬大池山荘(2469m)へ到着。予約の時に遅くなりますと連絡していたので、広い部屋を個室のように用意してくれゆったりと休めて助かった。

 8月12日、5時30分朝の爽やかな気分と朝日が白馬大池を輝かせ、周囲に咲き乱れるチングルマの群落が凄い。ハクサンコザクラの群落もあり、今日の長い縦走路へ期待を膨らませて出発。雷鳥坂を登り最初の目的地の小蓮華山へ向う人たちの列に私たちもいる。気分の良い歩き、いつも私はマイペースで片平先生とMさんの背中を遠くに見て歩く。空気も爽やかで、快適な足取り、後ろを振り返ると白馬大池と山荘の赤い屋根が眼下に見え、縦走路が素晴らしい。小蓮華山(2766m)7時30分到着。

 ここからの眺めは正面に白馬鑓ヶ岳、右側に白馬岳がどんと聳え、遮るものが無くはっきりと見える。また北側には雪倉岳とその奥に朝日岳もみえた。北アルプスのパノマラコースは最高だ。三国境(2751m)へ新潟、富山、長野の県境に到着。5月の積雪期の遭難を思う。悪天で周囲も何も見えない状態で、低体温症を発症すると思考力も無くなり経験者たちでも命を落とす。どうしてと家族の疑問は残るだろう。山や天候は生き物で、牙を剝くのかなと、休憩しながら考えた。大自然の山の中では人間は小さな豆粒、その豆粒が大自然の中を黙々と歩きながら、次々に征服をしてゆく、大自然も素晴らしいが、人間も素晴らしいと、前後のルートを辿る人をみながら思う。これも天候に恵まれ豪快な北アルプス白馬エリアの尾根の風景と高山植物と歩きを楽しむ。馬の背を越え目前に白馬岳山頂への登山道がはっきり望め、もう一頑張り、白馬岳(2932m)9時30分到着。まだ静かな頂であった。この山頂の東側は鋭く、大きく落ち込み、氷河期に大きく削られたのが原因と言われ、西側はゆるやかな傾斜を保ちながら伸びている非対称山稜となっている。 ゆっくり休憩をしていると「白馬岳が終点ではないです。杓子岳・白馬鑓を通り天狗山荘まで4時間歩きますよ。」片平先生の声で今回最終目的を思い出し、記念撮影をして白馬山荘へ、この時間帯はさすが静かでレストランも一番乗り、うまい水分補給を十分して出発。

 昨年友と二人で白馬鑓温泉へ、分岐までの同ルートを歩くが、夢中だったのかほとんど記憶にない。片平先生とMさんのザックを追いながら、高山植物イワギキョウの紫、ウサギギクの黄色、イワツメクサ、コマクサまで楽しめた。白馬固有のウルップソウ達は咲き終わっていた。杓子岳に二人は登り、私は巻道を先に歩いて行く。杓子はガレ場の山ですぐそばに稜線も見える。のんびり杓子と白馬鑓のコルを行く。じりじり暑い日差しの中、白馬鑓の登りで大きな声で名前を呼ばれ、後ろを見ると二人の姿を認め、白馬鑓ヶ岳頂上へ10分前の分岐で、登ってくる二人をパチリ。この分岐から天狗山荘とキャンプ場が見えた。白馬鑓頂上は次回にして天狗山荘を目指し出発。20分ほど歩くと鑓温泉との分岐(2774m)の地点到着。おりからガスが湧き周囲の景色はガスの中になり、尾根道のイワギキョウが風に揺れその中を歩くと雪田が現れ、天狗山荘への下り道は緑のロープが張られている。この雪田は融けることは無い。ふと見るとウルップソウが青い花をつけ咲いている。ここにもあそこにも「うわあ、嬉しいな。」カメラを取りだし夢中で撮った。雪がやっと解けたばかりの地点で、やっと花が咲くことができたのか見頃であった。白馬縦走の長い道のりで最後のプレゼントに涙が出た。天狗山荘前で、心配そうに片平先生とMさんが待っていた。「お待たせしてごめん。ウルップソウの写真を撮っていたので。」14時30分今夜の宿へ到着。着替えてくつろぎ、もちろんビールで乾杯。水が豊富で小奇麗で清潔感のある山荘が気に入った。明日の不帰の成功を祈り、休んだ。

 8月13日、4時30分起床、まだ雨は降っていないが風が強く、曇り空。朝食後、片平先生が「雨具をつけとりあえず出発します。」5時40分雨も降りだし風も強い中出発。ガスで景色も見えず私は前の二人から離れないように必死で歩く。緑のロープの中、ますます風が強くなった。私が足を引っ張らないように不安になりながら歩いていると、「雨で岩が滑りやすく危険なので撤退します。」片平先生の決断でほっとした。Mさんも「これでは止めるのが正解。」 6時10分天狗山荘へ戻り、白馬鑓温泉経由で猿倉まで下山することになった。雨は相変わらず降り、カメラはザックの中、大出原のチングルマの群落は疲れを吹き飛ばす。クルマユリ、ハクサンフウロ、キンポウゲの花畑をひたすら下山、ハクサンコザクラの花畑で休憩、カメラで写真を撮る。「ここから鎖場で滑落事故多し」の看板がでて緊張するが、片平先生のアドバイスでクリアして大雨の中9時30分鑓温泉到着。指導員が「残雪が多く、登山道の崩落もあり高巻もあり、下山に4時間はかかります。天気も悪いので、ヘリも飛びませんので、気を付けて下山してください。」温泉は下山してから、覚悟を決め、歩き出した。昨年は残雪が無く夏道をひたすら長い道を下山したが、今年は2か所も雪渓を渡り、高巻をしてなかなか高度が低くならない。やっと小日向のコルに12時到着。片平先生が「14時には猿倉に着きます。」この一声で元気が出て、前の二人を追うが姿も見えず、私のペースで歩く。14時10分今回の山行は終った。

 Mさんから今回は準備も原点に戻り不必要なものは何も持参せず、それでいて、もしもの準備は万端にザックに入っているという彼女に、もう一度私も原点に戻ることを考えさせられた。
 今回も片平先生にはザイルからもしもの装備を含め20Kのザックを背負いながら、大変お世話になり
 安心して白馬縦走ができたことに感謝したい。