2012年(平成24年)1月10日号

No.526

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茶説

原発事故の拡大は『戦いの原則』を忘れたツケだ

 

 牧念人 悠々

 東京電力第一原発事故の中間報告書、これに対する委員たちのテレビでの解説、新聞の社説を昨年末に拝見、拝聴した。ここで一番奇に感じたのはいずれも『戦いの原則』を忘れており「常に最悪の事態を考え、対処する」視点が欠けている点であった。戦後66年たち、平和に慣れ過ぎ、戦死者を一人も出さなかった「弊害」が顕著に出ているというほかない。極端なことを言えば「防衛政策を国政の最下位に位置付けた日本の安全保障対する姿勢がそのまま原発事故の対応に現れた」と言うことである。

 高さ15メートルを超える津波の襲来は「想定外」と言う自体、『戦いの原則』を忘れている。戦争はすべて「想定外」のことが起きる。戦場の様相は千差万別である。これに対処しなければ負けてしまう。東京電力第一原発は地震と津波で外部電源と発電所に備えられていたほぼすべての交流電源が失われ、原子炉や使用済み燃料プールが冷却不能に陥った。「敵」は我が陣地に進入、その機能を麻痺しようとした。作戦要務令『軍の主とする所は戦闘なり故に百事みな戦闘を以て基準とすべし而して戦闘一般の目的は敵を圧倒殲滅して迅速に戦勝を獲得するにあり』。まず冷却不能に陥った事態を回復しなければいけない。これが戦闘の目的である。1号機の『非常用復水器』は津波到達後に機能を失ったが現場ではなんと『非常用復水器』の役割を十分把握していなかった。その上、所長や本店は稼働している誤解した。誤解を気付く機会は何度もあったが見逃されてしまった(1号機の炉心損傷は3月11日午後18時・1号機圧力容器破損は20時・政府推計)。3号機の冷却装置『高圧注水系』の操作では所長らの判断を仰がず別の注水操作をしようとして稼働を停止した。その後バッテリーがなく「高圧注水系」の再起動はできなかった。予備のバッテリーの補充の配慮がなかった。作戦要務令(運用の妙)『戦闘に於ては百事簡単にして且精練なるもの良く成功を期し得べし典礼はこの趣旨に基づき軍隊訓練上主要なる原則、法則及び制式を示すものにしてこれが運用の妙は一にその人に存すもとより妄りに典則に背くべからず又これに拘泥して実行を誤るべからずよろしく工夫を積み創意に勉め千差万別の状況に処しこれを活用すべし』。1号機、2号機とも地震当日の午後3時50分までに原子炉水位や他のパラメーターを監視できなくなった。当直は過酷事故対策用の「事故時運転操作基準』を取り出して読んだが全交流電源が失われる事態を想定していなかった。これが戦場である。手をこまねいては負けてしまう。戦闘の目的は燃料棒の冷却である。これに何が何でも全力をあげなければならない。津波到達から2時間以上も『非常用復水器』の「冷やす」機能はほとんど機能しなかった。当直長から代替注水ライイン構築作業について報告を受けた発電所対策本部は誤解した受け答えに終始し、当直長が何度訂正しても十分理解が得られなかった。所長は11日午後5時12分発電班、復旧班に大が絵注水を検討するよう指示したものの各班での役割、責任が不明確で12日未明までに具体的な検討、準備がなされなかった。残念でならない。指揮官は自分の命令が実行されているかどうか確認する必要がある。部下に報告を求めるとか副官に実行を確認すべきであった。敵の一撃を食らった後すぐに反撃しなければ敵はさらに攻撃を仕掛けてくる。作戦要務令「指揮官は軍隊指揮の中枢にして又団結の核心成り故に常時熾烈なる責任観念及び強固なる意志を以てその職責を遂行するとともに高邁なる特性を備え部下と苦楽を共にし率先躬行軍隊の儀俵としてその尊信を受け剣電弾雨の間に立ち勇猛沈着部下をして仰ぎて冨嶽の重きを感ぜしめざるべからず」。さらにいう。「なさざると遅疑するとは指揮官の最も戒むべき所とすこれ両者の軍隊を危殆に陥らしむることその方法を誤る寄りもさらに甚だしきものあればなり」

 あくまで所期の目的は燃料棒の冷却であった。外部から水を懸けるほかない(12日5時46分1号機で消防車による淡水注水)。1号機の水素爆発は12日の15時36分。所長が海水注入を指示したのが爆発直前の14時54分であった(12日19時04分1号機消防車で海水注水)。ここで所長の独断が起きる。『今官邸で海水注入について検討中だから注入は待ってくれ』という要請に所長はいつ再開できるかわからないのに海水注入を中断すれば原子炉の状態が悪化の一途をたどると判断して担当者に小声で「これから注水中断を指示するが絶対注水を止めるな」と指示して現実には注入を続けた。作戦要務令『およそ兵戦の事たる独断を要することすこぶる多し而して独断はその精神においてけして服従とは相反するものにあらず常に上官の意図を明察し大局を判断して状況の変化に応じ自らその目的を達し得べき最良の方法を選び以て機宜を制せざるべからず』。所長の独断は責められるべきではない。

 3号機の水素爆発は13日11時01分、4号機水素爆発は14日15日6時であった。かくて放射性物質が放出する。犠牲者を一人も出さなかたものの戦いに敗れた。

 首相があまりにもお粗末すぎた。統帥綱領『戦いに最後の判決を与える者は将帥なり』つまり「統帥の中心足り原動力たるものは実は将帥にして、古来軍の勝敗はその軍隊よりもむしろ将帥におうところ大なり」。この点を見逃してなるまい。

 新聞の解説は「この中間報告から浮かぶのは『安全文化』が欠如した国や東京電力の姿だ」(毎日)いう。この思考がおかしい。『戦いの原則』には「安全文化」は存在しない。戦場には常に死がつきまとう。安全などと言う場はどこにもない。これというのも他国に侵略されず平和と安全を米国にゆだね経済発展に酔い、戦うことを拒否したから平和を維持できたと“錯覚”したツケである。『一国平和主義の思考と精神』の結果に他ならない。