安全地帯(345)
−信濃 太郎−
夫婦の間柄は千差万別である
映画「RAILWAYS」を見てから定年後の夫婦の間柄が気になってしょうがない。私は仕事を離れて14年も立つ。映画見た直後『銀座展望台』(12月16日)に次のように書いた。
『真面目に鉄道運転士を勤め上げ定年を控えた男に待ち受けのは妻の意外な言葉であった。「看護師として自立したい」。定年後は妻と旅行でもしたいという男とは真っ向から対立する。離婚ーその果てにはどのような結末が・・・
仕事を一筋にやってきた男には妻の気持ちはよくわからない。以心伝心と思っている。それが現代では通用しなくなったということである。
妻の自立も認めてやれというわけである。家事も手伝ってやれというのであろう。
映画を観終わった後の心境は複雑であった。妻の気持ちの半分を理解し半分に反発を覚える。それぞれの夫婦が結論を出すべきであろう』
監督の蔵方政俊さんは富山の風情に魅せられ、立山連峰が日々に違った味わいを見せるのが大好きになったようである。夫婦のあり方もそれに近い。口に「アイ・ラブ・ユウ」などと言わなくても態度で分かるはずである。風景がすべてを物語る。亭主もそうなのである。妻の佐和子(余貴美子」も分かってやれと言いたくなる。55歳にもなってまだわからんのか怒鳴りたくもなる。亭主(三浦友和)は一緒に妻と旅行したりそばで過ごしたりしたいのである。仕事に打ち込んで家庭を顧みなかった59歳の男の素直な気持ちである。妻は妻で結婚を機に辞めた看護師の仕事に就きたいという。妻が選ぶ自立した第二の人生と言うわけである。これまで亭主の面倒を見て来た。食事もちゃんと作ってきた。これからは自分が選んだ人生を進みたいという。その気持ちはわからないでもない。近くに住む友人夫婦は奥さんが食事を作るのが嫌になったというので自宅を売却、そのお金をもとに近郊の看護・食事付きのマンションに移っていた。すでに5年になる。我が妻にもその癖が出てきた。亭主の食事を作るのが面倒くさくなったのである。当方もやむを得ず風呂場の掃除をしたり皿洗いをしたりする。「男子厨房に入らず」は死語である。映画の運転士夫婦は一度、離婚届を市役所に出すが最後は亭主が妻の第二の人生を認め自分も運転士の仕事を続けることにして改めてプロポーズをする。
雑誌『偕行』12月号・俳句で特選の句は『老妻の足ぶみミシンの音爽やか』(54期・原田重穂)であった。私は『音爽やか』にこの夫婦の仲の睦まじいのを知る。私より5歳も年配である。お互いに独立独歩の私にはうらやましい気がしないではない。
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