2011年(平成23年)11月20日号

No.521

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追悼録(436)

加藤周一さんの先見性

 

 鷲巣力著「加藤周一を読む』(岩波書店)に次ぎのような個所がある。加藤周一さんが1999年10月20日朝日新聞の夕刊に連載した『夕陽妄語』に核の平和利用問題を論じているとその所見を紹介する。

 「核爆弾も原子力発電も、核分裂の連鎖反応から生じる。連鎖反応が加速されれば爆発して爆弾となり、原子炉の中で制御されて臨界状態が続けば発電所の熱源になる。比喩的にいえば原子爆弾とは制御機構の故障した発電所のようなものである。(中略)核戦争の起こる確率は小さいが、起これば巨大な災害をもたらす。原子力発電所に大きな事故のおこる確率は小さいがゼロではなく、もし起こればその災害の規模は予測しがたい。一方で核兵器の体系に反対すれば、他方で原子力発電政策の見直しを検討するのが当然ではなかろうか」

 今から12年前の所見である。少数意見は常に見捨てられてしまうと言うことか。
加藤周一さんは「九条の会」に参加していた。憲法全103条のうち第9条「戦争の放棄、軍備及び交戦権の放棄」に限定してその堅持を訴える市民運動である。その動機は南の海で戦死した二人の親友も日本が再び戦争をしないことを願っているに違いない。その戦友を裏切りたくないという思いからである。

 この気持ちは分からないではないが、今の国際情勢は無手勝流で国の安全を守れる状況にはない。甘すぎる。どの国も日本の安全を守ってはくれない。日米同盟もいつ無効になるかわからない。自分の国は自分で守るしかない。

 いたずらに戦争を好むものではないが仕掛けられて喧嘩は応ずるほかない。その対応策を十分備えてくのが国としての使命であると思う。

 このほか『加藤周一を読む』には色々教えられ、考えさせられた。『座右の書』としたい。
 加藤周一さんは2008年(平成20年)12月5日死去、享年89歳であった。


(柳 路夫)