2011年(平成23年)9月1日号

No.513

銀座一丁目新聞

上へ
茶説
追悼録
花ある風景
競馬徒然草
安全地帯
いこいの広場
ファッションプラザ
山と私
銀座展望台(BLOG)
GINZA点描
銀座俳句道場
広告ニュース
バックナンバー

 

安全地帯(332)

信濃 太郎


10代をよりよく生きる読書案内


知人の児童作家・詩人、こやま峰子さんから「10代をよりよく生きる読書」・詩歌編(東京書籍・2011年8月13日第1刷発行)が贈られてきた。こやま峰子さんら5人の執筆者によってこれまでに出版された詩書・歌書を「自分らしく生きる」など8項目に分けて紹介する。引用される書は中原中也詩集もあれば万葉集、俳句歳時記など多岐にわたる。

「心の糧になるような詩歌を心のポケットにそっとしのばしてほしいのです」とこやまさんは言う。

まず俳句から入る。「合本俳句歳時記第4版」(角川学芸出版・2008年)春、夏、秋、冬の風に関する季語がそれぞれ6語、紹介されている。冒頭に高浜虚子の句「春風や闘志いだきて丘に立つ」がある。

虚子のこの句は本誌で1年にわたり連載した「大正精神史」にも取り上げた。ここにその一部を再録すると、「大正時代は当初から新傾向の俳句の流行と変調がまかり通っていた。高浜虚子が立ち直ったのは大正2年1月である。久しぶりに自宅で開いた句会で次の句を詠む。『馬叱る声氷上に在りにけり』『ありにけり』はその後、流行をみるようになった。

さらに2月11日の三田俳句会での句である。『春風や闘志抱きて丘にたつ』闘志とは新傾向俳句に対して伝統をあくまでも守るというものである」。読書はさらにその先へと人を誘う。

「202人の子どもたち―こどもの詩2004―2009」―長田弘選」は「失ってはいけないふるさとの人と風景」と題して青森県八戸市・小学校5年生・工藤桃子の詩「私の家の周りの道」を取り上げる。「私の家の周りの道は/とてもおかしな道/急で石が数えきれないほどある小道/始めは下り坂だけど走っていると/のぼり坂になる長い道/道を歩いて曲がると道ばたに/草や木があってこん虫がいる道/だいすきな道」

この本の作業中に東日本大震災が起きた。執筆者の一人岩辺泰史さんは被災地・東北の子どもたち自分の声を―と思って「ゴッホの絵のような魅力的な詩」(選者長田弘の批評)を収録したという。今年の俳句甲子園の優秀賞作品に「夏雲や生き残るとは生きること」(岩手県・黒沢尻北・3年・佐々木達也君)が選ばれている。

このほか「物事の奥に隠された真実」詠った金子みすずの童話集、「日本を今一度せんたくいたし申し候」と書いた坂本竜馬が姉坂本乙女にあてた手紙などもある。

最後に私が好きな「いろは歌」があるのか見ると、あった。「色は匂へど 散りぬるを 我が世誰ぞ 常ならむ 有為の奥山 今日越えて 浅き夢見し 酔ひもせず」(作者不詳)。私は時折、適当な節をつけて歌う。哀調切々たる人生歌である。今日も歌ってみようか・・・・