2011年(平成23年)6月20日号

No.507

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花ある風景(422)

 

並木 徹

 

蜷川実花写真展を見る

 
 蜷川実花写真展を見る(6月14日・東京品川・キャノンギャラリーS)。木村伊兵衛写真賞、大原美術館賞など数々の賞を受賞、映画まで作っている多彩な女性である。デビユーして18年、未発表の写真を中心に展示したという。

 写真家・霜田昭治さんは「写真は五感で撮るものだ」という。視覚、聴覚,臭覚、味覚、触覚である。蜷川実花は「撮りたいと思った瞬間、撮るだけです」と挨拶の中で書いていた。すでに60冊の写真集を出している実花にしてみれば「山があるから山に登る」と言う登山家に似た心境であろうか。もっとも女性のなかには「山は私を天女にしてくれる」と言う人もいるから会心の作品ができたら実花も天女の心境になるのかもしれない。

 初めてみる蜷川実花の写真は原色が基調であった。特に「赤」である。強烈である。赤い花、イチゴの写真が所狭しと展示される。彼女の遺伝子は「いたずらに安定を求める」「現状を維持する気持ち」を排除する。ひたすら前進である。そうしないと落ち着かないのであろう。我が家の近くに住む雑誌社の元カメラマンは「あの人の写真はバリ島、ブラジルですよ」と評していた。なるほどと思う。

 一緒に写真展を拝見した霜田昭治君の友人有賀乕彦さんは砂浜に遊ぶ子供を右下にあしらい海、砂浜を左上にして映した写真を褒めていた。有賀さんは有名な「有賀写真館」の2代目である。そういえば実花の写真には「男性」の姿がない。子供ばかりである。何故か。子供の純粋さにひかれるからであろうか。

 食事の際、昭和35年から50年間写真館をやっている有賀さんが面白い話をしてくれた。一つが「ニコラ・ペルシャイトレンズ」に絡む話である。1925年にドイツの肖像写真家ニコラ・ペルシャイトが考案した特殊軟焦点レンズである。球面収差と色収差を適度に残すことにより、シャープな画像の周りに柔らかなボケが出来、肉眼の印象に近い自然な描写となる。 このレンズを父親から譲られ、長く愛用したが、「ニコラ・ペルシャイトレンズ」を長く伝えたくて腕の確かな友人に最近、譲ってそうだ。中古品でも60万円もする。もう一つがほろりとする話であった。両足のない少女がいつも母親に連れられて写真を折に触れて撮りに来た。大学にも進学、よい成績であった。卒業して役所に勤めた。そのうち結婚した。男性は宗教家のようであったという。人生を自分なりに頑張り幸せをつかんだ一人の女性の姿を思い浮かべた。