2010年(平成23年)2月1日号

No.493

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安全地帯(310)

信濃 太郎

格言よく子供を育てる

 


 
手元に「日本名言名句の辞典」(小学館1989年4月1日刊第5刷)がある。書き出しに困ったり、結びがうまく収まらなかったりしたときによく使う。試みにページをめくると「士は義理より大切なるはなし。その次には命を大切とし、金銀は叉その次なり」が出てきた。室鳩巣の言葉である。今の世の中は全くこの逆である。戦後教育が悪いのか、個人主義を履き違えたのか、万事お金の世の中になってしまった。

 友人がことわざ文化学会編「ことわざに聞く」(人間の科学社・2010年11月10日第1版発行)を送ってくれた。「知人の先生が良いことを書いている」と言う話であった。元小学校の先生、安藤友子さんが体験にもとづいてことわざの良さを書いている。素晴らしい先生がいるのに感心する。

 5年生の担任の時、ことわざを研究している同僚の職員Tさん(時田昌瑞さん)にことわざの話をしてもらったところ、意外と好評であった。ことわざの授業を通して、子供は本物をつかみ取る力を持っている。一流をかぎ分ける感性を持っていることを知り、ことわざの魅力について考えるようになったという。異動した小学校では6年生の担当であった。子供たちと接するのは1年しかない。そこで毎日発行の学級通信「握手」を出す。この着想は素晴らしい。コミュニューケイションを図るには最大の手段である。「握手」でことわざ遊びを始める。「毎朝一人一つことわざ集め」に取り組む。毎朝一人の子供が短冊に書いたことわざを発表、それを教室の壁に掲示する。面白いことわざが発表されると教室が笑いの渦に包まれる。普段の授業では積極的に発言しない子供がことわざの発表を進んでするようになった。

 学級通信「握手」には創作ことわざが載っている。「ドンマイは心のゆとり」「努力のかたまりは、成功のもと」「成功は大成功のもと」。卒業から18年後6年1組のこともたちが安藤先生の教職卒業を祝って「クラス会」を開く。うらやましい話である。「ことわざ遊び」は時を経て、いよいよ私たちのきずなを深め30代になった6年1組の文化になったと安藤先生は締めくくる。

 安藤友子さんは言う。「ことわざは、時を越え人を越えながら、人をつなぎ人を励まし勇気を与える不思議な力を持っている」。私の好きな創作ことわざ。「三度のごはん、きちんと食べて、火の用心、元気で生きよう きっとね」(井上ひさし)。