安全地帯(308)
アメリカの外交官の俳句修行
アメリカの外交官・アビゲール・フリードマン著・中野利子訳「私の俳句修行」(岩波書店・2010年11月26日発行)を読む。俳句の入り口付近でウロウロしている私には面白かった。著者はある会合で知り合った俳号・旅人木に促され立った檀上で俳句の話をする。席上、諳んじていた「夕晴れや浅黄に並ぶ秋の山」(一茶)など蕪村、去来,子規の句を紹介する。当意即妙。立派である。私にはできない芸当である。旅人木の誘いで黒田モモ子が主宰する沼桃俳句会に出席する。またモモ子先生の個人レッスンも受ける。「秋の風皇居の堀の鴨の足」に対してモモ子先生が示した句「鴨来る皇居の堀にわれもまた」であった。鴨は冬の季語。私も時々季語が二つになることがある。
「父と母にも何となく初電話」モモ子先生の句「米国の父母に電話をお元日」
「鍋の中柔らかきそば年忘れ」モモ子先生の句「茹で挙げて年越しそばを一家して」
モモ子先生が自分の句を挙げて説明する。「磨崖仏おほむらさきを放ちけり」。「俳句をあなたの感性を注ぎ込む器と考えて下さい」と彼女に教える。モモ子先生の句はすごい。
アビゲールさんは拉致問題担当であった。5人の拉致被害者が帰国したい際。日本の事情を事細かく国務省に送っている。6ヶ国協議(第2回・2004年)にもアメリカ代表団の一員として参加している。3児の母として多忙な合間に俳句にいそしんむ才媛である。小冊子「沼声」に彼女の句が活字になる。「窓閉めて七偕の部屋蝉時雨」。彼女はこんな句も読む。「トーストに塗る杏のジャム師を思う」。
桜花巡礼の際に作った句。「花に問へ奥千本の花に問へ」。モモ子先生にはこんな句がある。「みな過ぎて鈴の奥より花の声」。3年の日本勤務を終えて帰国するアビゲールさんにモモ子先生は次の句を送る。「皐月富士別るるは叉逢はむため」。さらに「不二」の俳号を贈った。今俳句は世界に広がっている。
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