花ある風景(406)
並木 徹
お芝居「くず〜い屑屋でござい」をみる
江戸時代、江戸の人口は百万を超え、世界一の都であった。ものの本によれば、町人136万3千40人、武士26万3千466人合計162万6千506人であった(天明7年・1787年、注・10代将軍・家治・松平定信が筆頭家老)。江戸は来日した外国人が驚くほど清潔であった。それは物を大事にして捨てずに再利用を心がけたからである。江戸の町には紙屑屋、割れた瀬戸物や茶碗などを再生する焼接屋、古椀買い、鋳掛屋、馬糞拾い、灰買い等の商売があった。それに金魚売り,凧売り、白酒売りが江戸の町に情緒を添えた。前進座の初春の舞台はエコな江戸の暮らしの紹介から始まり、初春に相応しく日本舞踊「乗合船」で締める。私は踊る女優たちの手の優雅な動きに見惚れていた。
台本・演出・鈴木幹二「くず〜い屑屋でござい」―古典落語「井戸の茶碗」より―は紙屑屋を中心にして貧乏な母娘、武士、それに中に立つ大家さんをめぐる人情物語である。“正直”が人々の心をほんわりと明るくする。見終わって気分が爽快であった。この愚直さ、日本にはすでになくなってしまっているような気がする。
正直清兵衛(柳生啓介)は働き者屑屋である。裏長屋に住む母娘に呼び止められる。侍だった夫を亡くした母千代(横沢寛美)が病弱で娘しづ(有田佳代)ともども今日の糧に困り、僅かな紙屑の他に先祖伝来の仏像を200文で売る始末。その仏像を白金の細川屋敷の高木佐太夫(高橋佑一郎)が300文で買う。ところが、高木がその仏像を磨いていると底から50両が出てきた。高木は屑屋に「仏像は買ったが50両は買っていない。持ち主に返して来い」という。千代は千代で「仏像はすでに売った他人さまのもの。先祖が入れたお金にしても一旦私の手を離れた以上、頂くわけにはゆきません」と突き返す。困り果てた清兵衛は大家さん(松浦豊和)に相談する。大家さんは10両を屑屋さんに、あとの40両を半分づつにして千代と高木にわけ、無事にことを収める。その際、千代は夫が生前使っていた茶碗を高木に贈る。さらに問題が起きる。殿様に呼ばれた高木がその茶碗を殿様に見せたところ、傍にいた目利きがその茶碗は朝鮮から渡来した由緒あるものというのである。早速、殿様が300両で高木から買い上げた。高木は清兵衛を呼んで「この300両をなんとかしろ」という。今回も大家さんのはからいで半分づつに分けることにした。今度は千代が「娘のしづを高木に貰っていたけないか」と言う。高木も「千代の娘なら大丈夫でしょう」と即答、話がまとまった。てんやわんやの騒動もめでたく幕となる。
「初芝居 真正直さを 貫ぬけり」悠々
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