2010年(平成22年)12月10日号

No.488

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安全地帯(305)

秋灯かくも短き詩を愛し  寺井谷子
 

寺井谷子さんが俳壇の第一人者として活躍されている。角川学芸出版から出している「俳句」11月号には巻頭グラビアの「作句の現場R」に登場。「全国女性俳句大会IN北九州の選者をはじめ女性俳句推進に打ち込んできた。自鳴鐘主宰、現代俳句協会副会長として北九州小倉の地を拠点に精力的に活動する」と紹介されている。写真は小倉城松の丸跡にある横山白虹の句碑の前に立つ和服姿の寺井さんである。寺井さんの父白虹さんと私は麻雀仲間である。俳句を教えていただかなかったのが悔やまれる。それから17年後に娘さんの谷子さんの教えを受けるようになったのだからよしとしなければなるまい。「俳句」11月号には「秋の蝶」と題して「父の句碑と撮られておりぬ秋の蝶」など5句がある。「作句の現場」のインタビューでは思い出の句として「まぼろしの蝶生む夜の輪転機」(昭和43年作「笑窪」)をあげられる。アルバイト先の新聞社の地下で夜に廻る輪転機を見て(まぼろしの蝶)のイメージが浮かんだという。青春の句。同じころの作に「夢も矩形に冷房の活版工場」がある。

 又「青春の辞書の汚れや雪催」(昭和60年作、「笑窪」)この辞書は学生時代に使っていた仏和辞典、卒業して10年近くたっての作、指脂や書き込みなど、使った痕跡が見える辞書に大学生活の4年間の思い出がよみがえってきたという。実はこの句について私は独断と偏見の断りをつけて“所感“を「自鳴鐘』に載せている(註・「笑窪」が出版された昭和61年10月直後の「自鳴鐘」)。『習作中に何気なく生まれた句か。ふと外を見ると今にも雪が降りそうな雲行き。気がつくとそばにある国語の辞書は相当に汚れている。若き日の勉強の後をしみじみと思い出したということか。よごれと雪の白への連想が対称の妙を出している。青春への回想は、辞書の汚れを通して生々しくむしろ官能的ですらある。国語の辞書より英語の辞書がふさわしいコンサイスの薄い紙質の端のめくれー想い出がそこから広がる』所感を書いてから20数年後に辞書が仏和辞典であることを知る。あとはあたらずとも遠からずと言うところであろう。当時私は61歳。それから24年、こちらは一向に進歩していない。むしろ退歩さへしている。だが、いつまでも挑戦する気持ちを失ってはなるまい。

 「俳句四季」9月号には『今月の華』として金子兜太、大串章と共に取り上げられている。新幹線の列車を背景にホームに和服姿の寺井さんがほほ笑んでいる。「秋灯かくも短き詩を愛し」と一文がある。『何か考えたかったり、疲れたりしたときにいつも手に取るのが岩波新書の「新唐詩選」「新唐詩選続編」である』という。私も手元にあるがいずれも1986年発刊で、12月10日の第58刷と7月20日の第32刷と新しい。寺井さんの本と30年の差がある。私は時たましか読まない。もっともっと唐詩選を愛さねばなるまい。