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チリ鉱山落盤事故に見る人世の縮図
牧念人 悠々
ユダヤの格言に「愚か者にとって老年は冬である。賢者にとって老年は黄金期である」がある。この「老年」を「現在」と置き換えても同じことが言える。ただし苦境に陥った場合という条件が付く。今回のチリ鉱山落盤事故で救出された33人の横顔を見てつくづくそう思った。
10月13日の『銀座展望台』に次のように書いた。
「▲チリ北部コピアポ郊外の鉱山落盤事故で地下に閉じ込められた33人の救出作業が13日から始まる。地下700メートルの暗闇で助けを待つこと80日(69日の間違い)。それでも救出の順番を巡り『私を最後にしてほしい』と申し出るものが多かったという。すごい人間力である。
私なら33人全員にインタビューする『全調査』をやる。それぞれにその思いは違うはずである。一旦は地獄を見た男たちである。そのドキュメンタリーは面白いだろう。
救出の心行き届いた手順も今後の事故の教訓となろう」
テレビや新聞(特に産経新聞)で見る33人の横顔は興味が尽きなかった。10月19日で全員が無事退院した。まず挙げなければいけないのは,抜群のリーダーシップを発揮したルイス・ウルアス(54)。鉱山経験31年のベテラン。まず20日分の食料の確保を考える。一人当たり小さじ2杯分の缶詰のマグロ、牛乳一口、ビスケット一枚を一日おきに分配するという規則を決めた。救援が来るまで20日間という判断は妥当であった。ホセ・オヘダ(47)がドリルにくくりつけた「33人が元気だ」と書いた手紙が届いたのは17日目であった。役割が決められた。ビデオ撮影係、治療係、電気係。それに元サッカー選手や牧師もおり精神面を支えた。全員に「絶対に助かるという希望を」を説く。
人間は死に直面すると愛に区切りをつけたくなるものらしい。11年簡同居する女性に改めて求婚するもの(34)もおれば交際相手に結婚式を挙げることを告げるもの(44)もいる。また妊娠中の妻に詩を送ったもの(33)、ユモアあふれる手紙を送った元軍人(52)もいる。現場で妻と愛人が鉢合わせした男性(52)はどうなるのかな人ごとながら心配になる。
作業員たちの平均年収が500万ペソ(85万円)だというのにテレビ出演料が2万ドル(162万円)、出版の申し込みもあるという。ビクトル・セコビア(48)は日記を克明に書く。これは貴重な記録になる。出版されればベストセラーになるであろう。やはり「愚か者」と「賢者」の違いが出てくる。ユダヤの格言はこうも言う「財産をたくさん持っていると、心配ごともそれに応じて増えるが、財産が全くない方が心配事は多い」
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