花ある風景(395)
並木 徹
オペラ「ラ・ポエーム」を見る
ウィーンの森 バーデン市劇場・プッチーニの歌劇「ラ・ポエーム」を見る(9月13日・武蔵野市文化会館)。オペラは昨年10月、府中芸術の森劇場でプラハ国立歌劇場の「アイーダ」をみて以来である。友人広瀬秀雄君の招待であった。大ホールは満員。花刺繍にいそしむ針子ミミ(エステファニア・ペルドーモ=ソプラノ)のアリアに酔った。
舞台は詩人・ロドルフォ(アルチョーム・コロッコフ)、画家・マルチェッロ((クルム・ベルドーモ)哲学者・コルリーネ・(ファルマル・サール)、音楽家・ショナール(ルッシ・ニコフ)の4人の屋根裏部屋から展開する。時は1930年代。世界が恐慌に襲われた不景気なころ。クリスマスイブである。場所はパリ。4人の若者達はそれぞれの道で大成を夢見る。これに対照的な二人の女性が加わる。花で言えば「菫」と「バラ」。性格で言えば「従順・しとやか」と「自由奔放・浮気者」である。名をミミとムゼッタ(ペトラ・ハルパー=ケーニヒ)という。
詩人はテノールで蝋燭の火を借りに来たミミにアリア「冷たい手を」歌う。「貧しいながら詩を作りながら夢を求めている」。ミミは答える。「私の部屋は春の太陽を最初に見られるの」。暗闇の中でミミが落としたカギを探しながら詩人はミミの手を握る。「暗闇に愛がある」。探せば幸いは何処にも落ちているのを多くの男達は知らない。
第2幕でムゼッタが登場、華やかになる。ムゼッタが歌うワルツ「私が街を歩けば」は昔の恋人画家に気を持たせるもの。彼女は今、枢密顧問官・アルチンドロ(マンフレッド・シュヴァイガー)の側妻。お互いに気がありながらもたつく画家とムゼッタの所作に観客から笑いが起きる。このホールの字幕の文字が大きく見やすい。
胸を患っていたミミは最後、詩人に抱かれて死ぬ。自由奔放なムゼッタも根はやさしい女性、最後は詩人のもとで死にたいと訴えるミミを屋根裏部屋につれてくる。聖母マリアに「たとえ私が許されなくても、どうか彼女は天に召してください」と祈る。ミミは「あなたは私の命、は私のすべて」と詩人に言い残す。
この8月の始めに死んだ毎日新聞社会部の後輩の奥さんは、このほど開かれた偲ぶ会に「かなわないことでしょうが、夫にまた会いたい」とのメッセージを寄せた。古今東西、男と女に愛の形はさまざま、美しくもあり、悲しくもある。人生は歌劇さながら・・・ |