2010年(平成22年)4月20日号

No.465

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茶説

原爆とは何か
 

牧念人 悠々

 私の手元に「こまつ座」が出している「(季刊)THE座」が37冊ある。何冊も同じものがある。同じ芝居を何回も見ているからである。これは私の教科書である。井上さんとは思想的に対極の位置にある。それでも教えられるところが多い。たとえば「THE座」(NO55・2004年4月10日発行)「父と暮らせば」特集「原爆とは何か」には井上ひさしさんの言葉が綴られている。井上さんは広島、長崎に落とされた原子爆弾は日本人の上に落とされたばかりでなく人間存在全体に落とされたものだと考える。だから被害者意識ではなく世界45億の人間の一人として、あの地獄を知っておりながら“知らないふり”することは、何にもまして罪深いことだと考えるから書くのだと言っている。オバマ米大統領はこの言葉を知っているだろうか。
 オバマ大統領の主宰で「核安全保障サミット」が開かれ「核物資の国際管理」など核防護の政治声明を出した(4月12,13日・ワシントン)。ここで明らかになったのは、テログループによる核兵器使用が現実味を帯びてきたことであった。人間はまことに愚かである。ますます井上さんの存在が意味を持つようになった。
 残念なことに井上さんが肺がんのためなくなってしまった(4月11日・享年75歳)。
 ここ10年、井上さんの「こまつ座」のお芝居を37本も見ている。一番多いのは、広島の原爆をテーマにした「父と暮らせば」で、5回もみている。不思議なのは毎回感じ方が違うことであった。護憲運動に熱心であった井上さんはこの芝居で「記憶せよ、抗議せよ、そして生き延びよ」と訴えた。芝居を何度も上演し書き続けるわけである。
 井上さんは観客にやさしい言葉で語りかけた。吉野作造を取り上げた「兄おとうと」では吉野作造の言う「民本主義」について「三度のごはん、きちんと食べて、火の用心、元気で生きよう きっとね」と表現した。鳩山由紀夫首相よ、庶民のためにばらまきも悪くはないが「火の用心」とは国の守りも意味する。日米同盟を空洞化するのは良くない。アメリカのある新聞が鳩山由紀夫首相に対して「最大の失敗者だ」と酷評するのは無理もない。「元気で生きよう」とは国民に夢を与えることだ。それなのに「宇宙ステーション」の予算を削減しようと考えていると新聞は伝える。子供が宇宙へ夢を持ち、目を輝かして宇宙飛行士と交信している「宇宙ステーション」である。そんなバカなことはやめた方が良い。
 また井上さんは、世の中におきる現象、出来事に「なぜ」を連発せよと問いかけた。これは必要なことだ。そのお芝居には常に珠玉のような言葉がちりばめられていた。惜しい人物をなくしたものである。