安全地帯(276)
−信濃 太郎−
日本は峠を越して醜く老い始めている
「日本は峠を越した。これからは美しく老いることだ」。これは作家、司馬遼太郎さんの遺言だそうである。日本は高い経済成長率は望めそうにない。今「世界のトヨタ」がアメリカで袋だたきにあっている。しかもその対応にもたもたしている。部下の責任は最高司令官である社長の責任である。政治家も自分の政治資金にもかかわらずすべてを秘書の責任にしてごまかして恥じない昨今である。
陸軍に今村均と言う大将がいた。敗戦によりオーストラリアで戦争裁判、禁固10年の刑を言い渡された。内地での服役を許され、巣鴨刑務所に収容された。ところが戦犯に問われた部下の多くがマヌス島で苦役していると知るや再三「マヌス島で部下と苦労をともにしたい」とGHQに請願。マッカサー元帥は「日本武士道いまだ滅びず」と許可して昭和25年2月マヌス島に行き部下とともに服役した。このように不自由な土地に自分が志願してでかけ責任の取った武人もいるのである。責任を取るのに躊躇するなかれ。迷ったら進んで米国へ出かけよ。
国力の基となる人口は減るばかりである。労働力も外人部隊を頼ることになりそうである。すべての経済指標で中国に抜かれ出した。確かに峠を越したように思われる。それにしても「これから美しく老いる」は日本にとって単なる願望にすぎない。政治は「カネ」で明け暮れしている。国の予算も「夢」も「希望」もない民主党の事業仕分け人が削減する。それを国民が歓迎する。科学予算やスポーツ予算を削って国の将来があるのか、そんなことが分からない日本人が増えてきた。事業仕分け人のやっていることは峠を越えた日本人を醜く老いに追いやっているだけである。バンクーバー五輪で韓国は男女ともスピードスケート500メートルで金メダルを獲得した。女子で金メタルに輝いた李相花は20歳、身長163センチ、体重58キロである。トリノ五輪では5位の成績であった。栄冠を勝ち得たのは選手の「世界一になりたい」という強い意志であった。日本のように「メダルを取りたい」という軽い気持ではない。常に世界の頂点をめざす気構えである。日本人は気構えからして政治家は「2位じゃだめなのか」と問い、小学校の運動会のかけっこも差別したくないからと、等級をつけない体たらくである。これでは峠から一挙に転落のほかないであろう。
司馬遼太郎さんが作家の陳舜臣さんと対談したなかでこう発言している。「明治維新の際、警鐘を鳴らしたのは、洋学者と外国の学問をやった連中ですね。しかも医者が多い」現代日本で警鐘を鳴らすものは、だれか・・・・
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