花ある風景(368)
並木 徹
毎日新聞OB同人雑誌「ゆうLUCKペン」に栄光あれ
毎日新聞のOB同人雑誌「ゆうLUCKペン」の第32集刊行の集いに出席した(12月10日・東京・一ツ橋・レストラン「アラスカ」)。出席者は26名であった。同人58名、会員75名を擁する会である。今年のテーマは「おっと、大失敗」である。執筆者30人のうち21人がこのテーマについて書く。実に面白い。たとえば大住広人は名文家・吉野正弘記者を取り上げる。吉野記者は暴走族に殴られて死んだ「暴力の殉難者」とされている。今年の7月出版された「記者風伝」(河合忠夫・朝日新聞)もそのように書かれている。大住は「一論説記者が酒の勢いでゲバ棒を振り回し正体不詳の相手を憎き暴走族一味と思いこんで、いきなり問答無用の先制攻撃を仕掛け返り討ちにあっただけ」と切り捨て「一番の過ちはおっと大失敗、なんてもんじゃない」と題して10ページ余の原稿を書く。原田三朗は20歳の大学生に大学教授、編集者、新聞記者が手玉に取られた失敗談をつづる。その失敗を今度は「検証記事」に仕立て逆にほめられるというエピソードを披露する。堤哲は「3億円事件」の教訓を取り上げる。40年も前の事件である。毎日新聞社社会部の当時の雰囲気をよく醸し出している。
今回入会したばかりの接待健一がそばにくる。「あなたとは昭和30年秋,甲府が台風に襲われた時、私と甲府支局の米山貢司の3人で孤立した村を取材するため激流の川の中を胸までつかりながら対岸までたどりついてことがありましたね・・・」と語りかけてきた。50年も前の話である。接待は写真部の大先輩「佐藤振寿さんと南京事件」を書く。佐藤さんは昭和12年11月19日常州で社会部の浅海一男特派員から頼まれて歩兵9連隊の向井敏明少尉,野田毅少尉が軍刀を構えてポーズをつけた写真を取った。東京日日新聞と大阪毎日新聞に「百人斬り競争」と言う見出しの記事につけられた写真である。両遺族が訴えられた名誉棄損の訴訟で佐藤さんは「百人斬りなどと言うことは、ありえない。あの記事はウソです」と証言する。南京事件についても「陥落から12日間、南京に滞在していたが、一般市民への虐殺があったなど信じられない」と虐殺を否定している。佐藤さんは昨年9月4日95歳で亡くなられた。
最後に「大阪毎日会館ホールの再建秘話」を書いた畠中茂男が登場、「毎日新聞政治部記者の歌」(細川隆一郎作詞・「王将」の曲)を歌う。
吹けば飛ぶような駆け出し記者も
家に帰れば天下の記者よ
かわいい女房のお酌で飲めば
鳩山由紀夫 一寸法師
次回は来年12月10日。なかなか面白い会である。