2009年(平成21年)11月1日号

No.448

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花ある風景(363)

並木 徹

プラハ国立歌劇場のオペラ「アイーダ」を観る

 
 プラハ国立歌劇場のオペラ「アイーダ」を観る(10月23日・府中市芸術の森劇場)。

 キャスト
 アイーダ(ソプラノ・ミシェル・クライダー)
 ラダメス(テノール・エフェ・キスラリ)
 アムネリス(メゾソプラノ・ガリア・イプラギモヴァ)
 ・・・・・
 エジプトの将軍ラダメスと王妃アムネリスの奴隷アイーダ(実はエチオピアの王妃)との悲恋物語である。国王ファラオ(バス・オレグ・コロトコフ)から国王の座とその娘アムネリスとの結婚を勧められてもアイーダとの恋に殉じたという話だ。舞台は古代エジブト(前3000年から前30年)、初演は1871年(明治4年)12月である。“天国に結ぶ恋”は人間にとってあこがれのものなのであろうか。4幕の最後でラダメスとアイーダが歌う「さよなら大地」は絶唱である。「さようなら大地、さようなら涙の谷、天は私たちのために扉を開いている・・・」。“天が扉を開いている”とは、死へのなんと誘惑的な言葉であろうか。つい、つい誘われたくなるではないか。
 ラダメスは「ナバダの谷には兵がいない」とアイーダに不如意にも国家機密を漏らしたことで地下牢に入れられる。その地下牢で隠れて待っていたアイーダは「不滅の愛、恍惚の愛が始まる」と歌う。クライダーのソプラノは心に響く。傑出したドラマチック・ソプラノの一人であり、小澤征爾とも共演している。
 ヴェルディは38曲の歌劇を作った。「リゴレット」も「椿姫」も「仮面舞踏会」もそうである。この「アイーダ」はそのうちの最大傑作といわれている。第2幕で歌われた「凱旋行進曲」は独立してよく聞かれる。トランペットの音色はひときわ心地よい。指揮者は来日したこともあるジョルジョ・クローチ。ヴェルディのストーリーは悲しいのが多い。「凱旋行進曲」も哀切な調べ、悲しい歌声の引き出し曲に思える。
 物語はエチオピア軍がナイルの谷へ攻め込んできて、ラダメスが総司令官に任命されたことから始まる。当時エチオピアは現在のエジプト南部からスーダン中部までの地域を指す。弓矢を巧みにする勇猛な異民族であった。ラダメスが歌うのは「清きアイーダ」。テノールのキスラリはイスタンブール出身、プラハ歌劇場には2006年に「アイーダ」で今回と同じラダメス役で出演、好評を博している。堂々たる歌う姿は、一軍の将軍に相応し風格を醸し出している。「愛しいアイーダよ、君のために戦い。勝つ」と誓う。舞台は4幕7場で展開する。巫女たちの合唱、見事な踊りもあって休憩20分を挟んだ2時間30分の時間はあっという間にすぎた。今回は府中市の計らいによりシルバー席で観劇した。折角の出し物にかかわらず、あちこちに空席が見られたのは残念であった。