1998年(平成10年)9月1日(旬刊)

No.50

銀座一丁目新聞

 

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茶説

首相に望む果断なる実行力

牧念人 悠々

 首相の直属の諮問機関「経済戦略会議」の初会合が開かれた(8月24日、首相官邸)。

 最重要課題である「経済再生」に向け具体的な政策提言をすることになっている。

 この「経済戦略会議」に一番関心を持ってもよさそうに思える財界の反応はかなり冷ややかである。無理もない。これまで役所は、民間の知恵や活力を借りるとして各種審議会を設け、会議ばかり開き、その答申をつまみぐいして形だけ行政に生かしてきたにすぎないからだ。

 まして、いまはそんな悠長な時代ではない。アジアの経済危機が目前にせまり、世界恐慌の恐れがあるといわれている秋である。

 やることは決まっている。不良債権の処理と金融システムの安定。景気の回復である。時間はない。政策を実行するほかない。のんびりと会議を開いている時機ではない。本来なら経済戦略会議は、首相をふくめた経済閣僚が日常業務をこなしながら連日のように集まって開くべきものである。知恵者がいないというならば、座長になったアサヒビール社長、樋口広太郎さんを大蔵大臣にすればいい。今からでもおそくない。

 朝日新聞(8月25日付)によれば、初会合を終えた奥田碩氏(注、トヨタ自動車社長)は次のように語っている。

 「やらなければいけないことは本屋に行けばみんな書いてある。いままで蛮勇を振うようなリーダーが出なかったから実行できなかっただけ」

 全く同感である。「経済戦略会議」がなすべきことは、首相に実行力をつけるため行動心理学を説くことと、政策が円滑に実施できるような環境づくりくらいではないか。いくら立派な提言を期限の年内までにつくりあげたとしても、実現されなかったら全く無意味である。“危機”は待っててはくれない。

 旧陸軍の「統師参考」は説く。「将師の責務はあらゆる状況を制して、戦勝を獲得するにあり。故に将師に欠くべからざるものは、将師たる責任感と戦勝に対する信念なり。将師の価値はその責任感と信念との失われたる瞬間において消滅す」

 首相に問われるのは、責任感と信念である。金融システム安定のために公的資金を投入するなら、巨額な不良債権の実態を明らかにして、各銀行の経営実体を開示すべきである。「銀行にモラルがない」と嘆いてばかりいないで、モラルをただすようにしなければならない。

 すべてが簡単に進むとは思わない。あちらあこちらに支障や障害が出る。それをすべてはねのけて所期の目的を実現するには蛮勇がいる。蛮勇を振うことにとって責任が全うされる。政策能力よりもむしろ、首相の政治能力が問われているといっていい。

 その意味では綜合調整能力に秀でている小渕首相に期待がもてそうだが、旧態依然の政治手法に頼っているとしかみえないいままでのやり方では多くを望めまい。

 政治の原点は、民のカマドの火を絶やさず、正直者に良い思いをさせるにある。口先だけでモノを言い、体裁をつくろう必要はない。国民が望んでいるのは首相の果断なる実行力である。

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